理科室を出てようやく一人になれた。ひどく嫌だというわけではないが慣れないことで疲れがマックスだった。部屋に帰って、夕食時間までベッドに転がりたい。
学校の門を出ててすぐそばにある寮へと帰り部屋のドアを開ける。どうせ真司は友達の部屋にでも行って不在だろう。僕が学校から帰って来た時、五割の確率でいないのだ。僕はそのままベッドに直行してベッドにダイブする形でうつ伏せになった。
「波瑠」
急に降ってきた声に心底驚いて慌てて身を起こした。
「真司……」
いたのか。視界に入らなかったからいないと思ったのに。机にいなかったから。真司も委員会が疲れたのかベッドに腰掛けていた。
この部屋でだけそう呼ぶことを許されている。昔からの知り合いだと周りに知られたくないのだろう。真司もまた僕のことを外では苗字でしか呼ばない。
「お前あの人と知り合いなのか?」
相変わらず声は冷たい。それでも話しかけてくれるのは嬉しい。会話が続かないような一言でも二言でも。僕たちの部屋は大部分が静寂でできているから。
「……あの人?」
「生徒会長」
「違うよ、どうして?」
「違うならいい」
話は終わりだと真司は立ち上がって机に向かう。
もしかして、中学が一緒だと言った話が聞こえていたのだろうか。真司はまだ帰り支度していたのかもしれない。
「会長さんが僕と同じ中学みたいだけど僕は知らなくて」
「知らないんじゃない、覚えてないだけだろ。委員会で会ってるって言ってただろ」
「あ、うん、そうみたいだけど」
そんなに突っ込まれるところだろうか。僕が会長さんを認識してなかったという点は変わりないのに。
話はそれで今度こそ途切れて。真司は机で課題を始めてしまった。
僕は疲れたからかうとうとし始め、次に目が覚めた時には真司はもういなかった。夕飯の時間が始まってるから。きっと友達と食堂に行ったのだろう。
真司が起こしてくれるはずもなく。それは朝も同じで、僕が寝坊しようがご飯を食べられなかろうが気にしない。起こしてほしいなんて思う僕が贅沢なのだ。だから朝は必ず二回に分けてスマホのアラームをセットする。あまりうるさくないように小さめの音量で。
食いっぱぐれるのは嫌だから僕も急いで食堂へ向かった。
食堂は三学年みんな一緒で、時間も同じ。全員座れるだけの大食堂だから並んで待つなんてことはないが、席は長テーブルで学年関係なく好きに座れる分、詰めて座るというルールもなく、いくつかのグループの間にポツンと一つ席が空いていたりする。
いつも僕は一人だからどこでも空いた席に座ればいいが、二人、三人で座ろうとすれば広い食堂を見渡して空いてる場所を探したりなんてすることもある。とは言え新入生だと一人でも、グループとグループの間の一つだけ空いた席に座るというのも気が引ける。前後左右空いていれば万々歳で。
そういうわけでどこか余裕のある空席はないものかと湯気の立つご飯をトレイに乗せたままきょろきょろしていると、食堂の小さな喧噪の中で名前を呼ばれた。同じクラスの奴だろうか。
「羽鳥君、こっち!」
もう一度呼ばれ、その声の主を捕まえようと急いでその方を向いたら。生徒会長が立ち上がって手を振っていた。
「え、あ……」
食堂中の人が僕を見た気がして、僕は固まってしまって。だって、学校一有名な生徒会長に一年生の僕が声を掛けられて、あいつ誰だと思われてるに違いないから。
「ここ空いてるよ」
僕からニ十歩ほど歩いたあたりのテーブルにいて。会長さんの前の席は確かに空いていた。左右にも誰もいない感じで一人で食事していたようだ。だから呼んでくれたのかもしれない。
行かないわけにもいかなくて、ぎくしゃくしながら会長さんの席へ向かう。自意識過剰かもしれないけど、みんなに見られてる気がする。
「あの……ありがとうございます。すみません」
いつまでも立っていると余計目立つので、トレイを置いて音を立てないように会長さんの前に座った。
「ん? なにが?」
会長さんはほぼ食べ終えていて、小さなガラスの器にデザートの苺があるだけだった。
「お食事中、お邪魔してしまって」
「どうしてそんなに気を遣うの? 邪魔じゃないから呼んだんだし、席を探してたみたいだし。誰かと約束あったらごめん、そっちに行ってね」
「いえ、僕一人です」
「そっか。じゃあ冷めないうちにどうぞ」
会長さんはにこっと笑った。
「はい……いただきます」
三年生の前でご飯を食べるって。しかも生徒会長。そしてほぼ知らない人。話すネタなんかないし、かといって、質問もない。会長さんは苺を残すだけでプラ湯飲みでお茶を飲んでいる。当然目も合わせられずに僕はうつ向きがちで食事をする羽目になった。
「今日はお疲れ様。緊張した?」
そこへ向こうから質問が飛んできて、僕は顔を上げざるを得なくなった。
「少し……」
「まあ、一年生から見れば二年も三年もおっさん臭いし、今の時点じゃ仲良くなれそうにないって思うよね」
にやりと会長さんは笑う。
「いえ、そんなことは」
体つきはつい最近まで中学生だった自分たちとは違うが、おっさん臭いなんてことは思わない。大人っぽいなとは思うけど。
「羽鳥君はいつも一人でご飯食べてるの?」
「あ、まあ……」
ご飯を食べるほどの、友達らしい友達はいない。クラスで適当な話をする程度だ。入学したばかりだからと理由をつけられないことはないが、真司のように何人もと一緒に楽しそうに食事する奴もいる。
本当のところは下手に仲良くなって真司との事がバレてしまうのが困るからだ。真司に影響するのは困る。だから親しい人を作ろうと思えないのだ。
「相部屋の子とは仲良くやってる?」
「あ、まあ……はい」
「二組の野間だよね?」
「は、はい」
どうして知ってるんだろう。生徒会長はそういうこともちゃんと知ってないといけないのかな。
「寮の外出届なんかにも俺は目を通すから、その関係で部屋割りも知っててね。羽鳥君のストーカーってわけじゃないよ?」
顔に疑問符が張り付いていたのか、会長さんは説明してくれた。
「そんなっ、そんなこと思ってないですっ!」
会長さんなりのジョークなんだろうけど僕は驚いて。思いの外大きな声が出てしまった。近くの人の視線を感じるほどに。そしてそんな僕の声に今度は会長さんが驚いて。
「ごめん、笑ってくれたらと思ったけど、俺そういうの上手くないね」
「いえ、そんな……」
にっと笑って会長さんは苺を指でつまんで口に入れた。
「じゃ、俺はこれで。ごゆっくり」
「はい、失礼します」
トレイを持って立ち上がると会長さんは返却口へ歩いて行った。
びっくりした。なんで僕を突然。同じ中学だったよしみとかそんなのだとしても。僕は覚えていなかった失礼な奴なのに……。
委員会の時、会長さんは懐かしそうな顔をしていた。生徒会長たるものすべての生徒に気を配らないといけない、とかなんだろうな。そういうことができる人が生徒会長になるんだろう。優しい。
夕食を食べ終え部屋に戻っても真司はいなくて、そのまま風呂へ行って帰ってきたら真司がいた。風呂の入れ違いだったのかもしれない。真司は寝間着に着替えていて、もう部屋からは出ないようだった。
寮の規則では、部屋の外に出る時は寝間着(パジャマ、スウェット、短パン等)は風呂上りでも禁止で、部屋の中でだけ着用を認められている。だから風呂上がりの着替えは普段着で、それで部屋に戻り、就寝時に寝間着に着替えるということになっている。消灯時間後はさすがにトイレに行くために着替えなさいということはない。
真司が部屋の外に出ない、ということは僕の奉仕の時間が確定ということで。ベッドの縁に座る時がそのサインだが、いつも寝間着というわけではなく普段着のままということも、風呂の前ということもある。いちいち言わせるなと言うので、僕は真司の動きを横目で確認しながらその時を見計らうしかない。
消灯時間に近い時もあれば、まだ廊下でみんながくつろいだおしゃべりをしている時もある。後者の時は鍵をかけているとはいえ、いつ誰かにドアをノックされるかわからない状態で、僕は気が気じゃなくて、真司にちゃんとやれと怒られることもある。だけど、たまたま今までがないだけで、いつそうなるかは真司にだってわからないだろう。
その真司が勉強机の椅子から立ち上がり、ベッドの縁に座る。
「今日は面倒だから、シコりながら俺のを咥えろよ」
真司を達かせるのは毎日でも、自慰をしろというのはいつもではなかった。それでも同時にやれなんてことは言われたことがなくて。
「早くしろよ。何で俺が待たされんだよ!」
ほんの少しの躊躇に真司のイライラはマックスに近くて。僕は急いで真司の足元に跪き、自分の前をくつろげて力のない性器を取り出してから真司のを口に咥えた。
我ながら淫猥な格好だと思う。口には他人の陰茎を咥えて己のそれは自分の手で扱いて。こういうのってアダルトビデオにもあるのだろうか。
「おい、自分だけ気持ち良くなってんなよ、俺のも悦ばせろよ」
「ごめ……」
でも一度に両方なんて無理だ。意識がどちらかに向けばどちらかがおろそかになる。言う通りにやってあげたいけど。
「噛むなよ?」
真司が僕の頭を掴んでぐっと自分の方へ寄せる。
!
勢いよく喉奥に真司の亀頭が当たって。
「うっ、ぅぐ……」
目の前が一瞬暗くなって小さく嘔吐いてしまった。真司に頭を押さえられてるからどこにも逃げ場がなくて、苦しさが涙となって目尻に浮かぶ。
「やっぱ気持ち良くないな、イラマ。やめた。お前もういいわ」
僕の頭から手を放し肩を突き飛ばされた。
「ごめんっ、フェラはちゃんとやるからもう一度」
これじゃ駄目だ。僕は何のために跪いているのか。真司に償いたいのに。真司が気の済むように。
みっともない格好のまま真司に寄ろうとしたが顔を逸らされて、真司は寝間着を整えた。
「お前の泣いた顔で萎えたわ。向こう行けよ」
そう言うと僕に背を向けてベッドに横になった。
……僕ものろのろと立ち上がり、自分の机に向かった。
学校の門を出ててすぐそばにある寮へと帰り部屋のドアを開ける。どうせ真司は友達の部屋にでも行って不在だろう。僕が学校から帰って来た時、五割の確率でいないのだ。僕はそのままベッドに直行してベッドにダイブする形でうつ伏せになった。
「波瑠」
急に降ってきた声に心底驚いて慌てて身を起こした。
「真司……」
いたのか。視界に入らなかったからいないと思ったのに。机にいなかったから。真司も委員会が疲れたのかベッドに腰掛けていた。
この部屋でだけそう呼ぶことを許されている。昔からの知り合いだと周りに知られたくないのだろう。真司もまた僕のことを外では苗字でしか呼ばない。
「お前あの人と知り合いなのか?」
相変わらず声は冷たい。それでも話しかけてくれるのは嬉しい。会話が続かないような一言でも二言でも。僕たちの部屋は大部分が静寂でできているから。
「……あの人?」
「生徒会長」
「違うよ、どうして?」
「違うならいい」
話は終わりだと真司は立ち上がって机に向かう。
もしかして、中学が一緒だと言った話が聞こえていたのだろうか。真司はまだ帰り支度していたのかもしれない。
「会長さんが僕と同じ中学みたいだけど僕は知らなくて」
「知らないんじゃない、覚えてないだけだろ。委員会で会ってるって言ってただろ」
「あ、うん、そうみたいだけど」
そんなに突っ込まれるところだろうか。僕が会長さんを認識してなかったという点は変わりないのに。
話はそれで今度こそ途切れて。真司は机で課題を始めてしまった。
僕は疲れたからかうとうとし始め、次に目が覚めた時には真司はもういなかった。夕飯の時間が始まってるから。きっと友達と食堂に行ったのだろう。
真司が起こしてくれるはずもなく。それは朝も同じで、僕が寝坊しようがご飯を食べられなかろうが気にしない。起こしてほしいなんて思う僕が贅沢なのだ。だから朝は必ず二回に分けてスマホのアラームをセットする。あまりうるさくないように小さめの音量で。
食いっぱぐれるのは嫌だから僕も急いで食堂へ向かった。
食堂は三学年みんな一緒で、時間も同じ。全員座れるだけの大食堂だから並んで待つなんてことはないが、席は長テーブルで学年関係なく好きに座れる分、詰めて座るというルールもなく、いくつかのグループの間にポツンと一つ席が空いていたりする。
いつも僕は一人だからどこでも空いた席に座ればいいが、二人、三人で座ろうとすれば広い食堂を見渡して空いてる場所を探したりなんてすることもある。とは言え新入生だと一人でも、グループとグループの間の一つだけ空いた席に座るというのも気が引ける。前後左右空いていれば万々歳で。
そういうわけでどこか余裕のある空席はないものかと湯気の立つご飯をトレイに乗せたままきょろきょろしていると、食堂の小さな喧噪の中で名前を呼ばれた。同じクラスの奴だろうか。
「羽鳥君、こっち!」
もう一度呼ばれ、その声の主を捕まえようと急いでその方を向いたら。生徒会長が立ち上がって手を振っていた。
「え、あ……」
食堂中の人が僕を見た気がして、僕は固まってしまって。だって、学校一有名な生徒会長に一年生の僕が声を掛けられて、あいつ誰だと思われてるに違いないから。
「ここ空いてるよ」
僕からニ十歩ほど歩いたあたりのテーブルにいて。会長さんの前の席は確かに空いていた。左右にも誰もいない感じで一人で食事していたようだ。だから呼んでくれたのかもしれない。
行かないわけにもいかなくて、ぎくしゃくしながら会長さんの席へ向かう。自意識過剰かもしれないけど、みんなに見られてる気がする。
「あの……ありがとうございます。すみません」
いつまでも立っていると余計目立つので、トレイを置いて音を立てないように会長さんの前に座った。
「ん? なにが?」
会長さんはほぼ食べ終えていて、小さなガラスの器にデザートの苺があるだけだった。
「お食事中、お邪魔してしまって」
「どうしてそんなに気を遣うの? 邪魔じゃないから呼んだんだし、席を探してたみたいだし。誰かと約束あったらごめん、そっちに行ってね」
「いえ、僕一人です」
「そっか。じゃあ冷めないうちにどうぞ」
会長さんはにこっと笑った。
「はい……いただきます」
三年生の前でご飯を食べるって。しかも生徒会長。そしてほぼ知らない人。話すネタなんかないし、かといって、質問もない。会長さんは苺を残すだけでプラ湯飲みでお茶を飲んでいる。当然目も合わせられずに僕はうつ向きがちで食事をする羽目になった。
「今日はお疲れ様。緊張した?」
そこへ向こうから質問が飛んできて、僕は顔を上げざるを得なくなった。
「少し……」
「まあ、一年生から見れば二年も三年もおっさん臭いし、今の時点じゃ仲良くなれそうにないって思うよね」
にやりと会長さんは笑う。
「いえ、そんなことは」
体つきはつい最近まで中学生だった自分たちとは違うが、おっさん臭いなんてことは思わない。大人っぽいなとは思うけど。
「羽鳥君はいつも一人でご飯食べてるの?」
「あ、まあ……」
ご飯を食べるほどの、友達らしい友達はいない。クラスで適当な話をする程度だ。入学したばかりだからと理由をつけられないことはないが、真司のように何人もと一緒に楽しそうに食事する奴もいる。
本当のところは下手に仲良くなって真司との事がバレてしまうのが困るからだ。真司に影響するのは困る。だから親しい人を作ろうと思えないのだ。
「相部屋の子とは仲良くやってる?」
「あ、まあ……はい」
「二組の野間だよね?」
「は、はい」
どうして知ってるんだろう。生徒会長はそういうこともちゃんと知ってないといけないのかな。
「寮の外出届なんかにも俺は目を通すから、その関係で部屋割りも知っててね。羽鳥君のストーカーってわけじゃないよ?」
顔に疑問符が張り付いていたのか、会長さんは説明してくれた。
「そんなっ、そんなこと思ってないですっ!」
会長さんなりのジョークなんだろうけど僕は驚いて。思いの外大きな声が出てしまった。近くの人の視線を感じるほどに。そしてそんな僕の声に今度は会長さんが驚いて。
「ごめん、笑ってくれたらと思ったけど、俺そういうの上手くないね」
「いえ、そんな……」
にっと笑って会長さんは苺を指でつまんで口に入れた。
「じゃ、俺はこれで。ごゆっくり」
「はい、失礼します」
トレイを持って立ち上がると会長さんは返却口へ歩いて行った。
びっくりした。なんで僕を突然。同じ中学だったよしみとかそんなのだとしても。僕は覚えていなかった失礼な奴なのに……。
委員会の時、会長さんは懐かしそうな顔をしていた。生徒会長たるものすべての生徒に気を配らないといけない、とかなんだろうな。そういうことができる人が生徒会長になるんだろう。優しい。
夕食を食べ終え部屋に戻っても真司はいなくて、そのまま風呂へ行って帰ってきたら真司がいた。風呂の入れ違いだったのかもしれない。真司は寝間着に着替えていて、もう部屋からは出ないようだった。
寮の規則では、部屋の外に出る時は寝間着(パジャマ、スウェット、短パン等)は風呂上りでも禁止で、部屋の中でだけ着用を認められている。だから風呂上がりの着替えは普段着で、それで部屋に戻り、就寝時に寝間着に着替えるということになっている。消灯時間後はさすがにトイレに行くために着替えなさいということはない。
真司が部屋の外に出ない、ということは僕の奉仕の時間が確定ということで。ベッドの縁に座る時がそのサインだが、いつも寝間着というわけではなく普段着のままということも、風呂の前ということもある。いちいち言わせるなと言うので、僕は真司の動きを横目で確認しながらその時を見計らうしかない。
消灯時間に近い時もあれば、まだ廊下でみんながくつろいだおしゃべりをしている時もある。後者の時は鍵をかけているとはいえ、いつ誰かにドアをノックされるかわからない状態で、僕は気が気じゃなくて、真司にちゃんとやれと怒られることもある。だけど、たまたま今までがないだけで、いつそうなるかは真司にだってわからないだろう。
その真司が勉強机の椅子から立ち上がり、ベッドの縁に座る。
「今日は面倒だから、シコりながら俺のを咥えろよ」
真司を達かせるのは毎日でも、自慰をしろというのはいつもではなかった。それでも同時にやれなんてことは言われたことがなくて。
「早くしろよ。何で俺が待たされんだよ!」
ほんの少しの躊躇に真司のイライラはマックスに近くて。僕は急いで真司の足元に跪き、自分の前をくつろげて力のない性器を取り出してから真司のを口に咥えた。
我ながら淫猥な格好だと思う。口には他人の陰茎を咥えて己のそれは自分の手で扱いて。こういうのってアダルトビデオにもあるのだろうか。
「おい、自分だけ気持ち良くなってんなよ、俺のも悦ばせろよ」
「ごめ……」
でも一度に両方なんて無理だ。意識がどちらかに向けばどちらかがおろそかになる。言う通りにやってあげたいけど。
「噛むなよ?」
真司が僕の頭を掴んでぐっと自分の方へ寄せる。
!
勢いよく喉奥に真司の亀頭が当たって。
「うっ、ぅぐ……」
目の前が一瞬暗くなって小さく嘔吐いてしまった。真司に頭を押さえられてるからどこにも逃げ場がなくて、苦しさが涙となって目尻に浮かぶ。
「やっぱ気持ち良くないな、イラマ。やめた。お前もういいわ」
僕の頭から手を放し肩を突き飛ばされた。
「ごめんっ、フェラはちゃんとやるからもう一度」
これじゃ駄目だ。僕は何のために跪いているのか。真司に償いたいのに。真司が気の済むように。
みっともない格好のまま真司に寄ろうとしたが顔を逸らされて、真司は寝間着を整えた。
「お前の泣いた顔で萎えたわ。向こう行けよ」
そう言うと僕に背を向けてベッドに横になった。
……僕ものろのろと立ち上がり、自分の机に向かった。