僕と真司はクラスが違う。
 寮を出て学校で授業を受けている時間は僕にとっては少し気が休まる時間だった。真司の僕を見る目が蔑みを含んでいるようで僕は落ち着かなくて。
 それだけのことをしたのだからとわかっている。いつか昔のように笑いあえるようになりたいと思いたいのに、その先が見えないのが今で。
 寮の部屋では、口淫する時以外は「寝る」とか「飯行く」とか必要最低限の言葉のみで会話らしい会話はない。真司は部屋では机に向かっていることが多いが友達が誘いに来れば風呂へ行き食事に行く。そのあとすぐに帰ってこなかったりするから友達の部屋で寛いでいるのだろう。
 僕と部屋の外で何かをすることはない。僕とは部屋の中でのフェラチオだけ。真司の学校生活が円満で楽しければいい。そう思う。
 真司は入学間もないけどすでに人望があって、明るくて、みんなに好かれている。僕が知っていた、中一までの真司そのものだ。クラスは違えど廊下ですれ違ったり遠目に見る限り、いつも周りに人がいて楽しそうだった。
 学校の中でなら、他に人がいる場所でなら真司も僕にも話しかけてくれて優しい。通りすがり程度だからその会話も二言三言で終わるし、それが心からの優しさではないこともわかっている。ただのフリだ。
 僕は真司の相部屋の人間として真司の友達に認識されている。だから景気の悪い顔はするなと、俺がお前に何をさせているか気取られないようにしろと言う。それは僕も十分わかっている。誰にも知られてはいけないことだ、今後できるであろう僕の友達にも。知られたくない、というのが少しの本音でもある。
 いけないことだと真司も思ってる。償う方法として間違いだと。だから人に知られるなと言う。僕は償いだとしても真司はきっと復讐でしかない。僕を苦しめたいのだ。自分が苦しんだ、嫌な思いをしただけ。
 そしてまた夜がやってくる。
 真司への奉仕が終わり、床についていた膝を伸ばして立ち上がろうとすると、ベッドの縁に座っている真司の右足が僕の股間をぐっと押した。
「あ……っ」
 少しの快感が走り、再び膝をつく。
「お前、勃ってんの? 俺の精液飲んで興奮したのかよ、変態」
「ごめ……」
 真司の言葉は間違ってない。僕は真司の陰茎を咥えて扱いて射精させることに興奮していた。真司にとっては変態行為かもしれないけど、僕にはそれが当たり前だった。真司の小さく喘ぐ声に興奮して、達く時に名前を呼ばれることに興奮して。僕が真司を気持ち良くさせているのだと暗い優越感に浸って。
 僕は真司のことが好きだ。ここへ来て自覚した。
 性的指向がどうだとかはわからない。僕がわかるのは真司のことが好きというだけ。
 こんな関係の中でも思い出すのは楽しかったあの頃で。また笑顔を僕に向けてほしくて、そばにいたくて……真司に触れてほしくて。
 だけど真司にはきっと届かない。僕を憎んでるし、男に性的興味はないだろうし。届かない想いを抱いてしまったのも罰なのだろうか。
「洗面所行ってくるね」
「待てよ、お前まだ勃ってんだろ? ここで抜いていけよ」
 いつもはそんなこと言わないのに。実を言えば勃起は今日が初めてじゃない。いつも知らないフリをしてるのに。
「二週間経ったじゃん、フェラだけじゃつまんなくなってさ」
 まさか。
「俺の前でオナってイけよ」
 のろのろと真司を見上げると口を歪めて笑っていた。僕に拒否権などなく、やれと言われたことはやるしかない。でも目の前で自慰なんて。さすがに無理だ。
「早くやれよ。萎えてるより勃ってるうちにシコったほうが早く達くだろが」
 それはそうだけど。
「お前のフェラ、動画撮ってんの忘れたのか?」
 初めて真司にフェラチオをした時にスマホで撮られた。撮ったというだけでそれ以上何も言わないし何もないが、何かあればそれを盾にとられるのだろう。僕は黙ってベルトのバックルを外した。
「自分のベッドの上でやれ」
 真司のベッドの下で膝をついていた僕は、たった数歩先の自分のベッドに上がった。二人部屋はとても狭い。それぞれの備え付けの学習机とベッドでほぼ埋まる。個人の荷物はクローゼットにしまう決まりだ。
 ズボンの前をくつろげ、下着の中から硬くなった性器を引き出すと根元から扱いた。
「……っ」
「もっと顔上げろよ、シコってんのちゃんと見せろって」
 他人の視線を感じながら自慰なんて顔から火が出るほど恥ずかしくて屈辱的なことのはずなのに、僕は明らかに興奮していた。真司の目の前で、冷たい目で見られながら性器を擦っている自分がいやらしくてぞくぞくして。
「う……ん……っんん……」
 すぐに先走りの液が先端を濡らし自分の手が性器を滑るたびにヌチャヌチャと音を立てた。
「お前、やっぱ変態だな。見られて興奮してんじゃんよ」
「あ……っ……ん……あ……も、う……」
 もう限界だと首を振る。許しを請えとは言われなかったが、ぼやけた視界で真司を見た。
「イけよ、ほら」
 ティッシュケースをそばに投げられ、急いで数枚手にとってその中に精を放った。
「……っ、っつ……ぅ……」
 いつも以上に量が多い気がして、恥ずかしくて。
「俺、課題やるからお前も好きにしろよ」
 僕への興味が失せたらしい真司はベッドから立ち上がると自分の机に向かった。