多分僕は今、穏やかな顔をしているに違いない。
昼は川崎とお好み焼きを食べて、夕食は守矢さんととって、そのあとデザートにアイスをいただいて、そして心の安らぎを与えてもらって。
真司の不在が嬉しいわけじゃない。でも真司と物理的に少し離れたことで僕は自分と向き合えて、楽しい時間を過ごした。きっとGW休暇が明けて真司が戻ってきたらまた真摯に向き合えると思う。
一番館の自分の部屋の鍵を開けて中へ入り、誰もいないから当然部屋は真っ暗で僕はドア横にあるシーリングライトのスイッチを入れる。風呂も入ってるからもう寝るだけで。明日は何をしようかなんてことは明日の朝考えよう。一人だから誰からも急かされることはないし自由に決められる。
「波瑠」
部屋が明るくなってふと視線を上げた先には。
「真司……!」
たまたま向けた僕のベッドの縁に真司が座っていた。大きな声を出しそうになるほど驚いて。
どうして。帰省したはずなのに。部屋の明かりもつけないで。
「随分とご機嫌だったな」
僕を睨みつける険のある口調に心が一気に冷えてしまって。僕は調子に乗ってたんだと思い知らされた。
夢のような一日はやっぱり夢だったのだと。それでいいのだと。ここが僕のいる場所なんだと。
「真司、家は……」
「誰が泊まるなんて言ったよ」
確かにそうだ。僕は帰る時間を聞いただけで、真司は実家で三日間過ごすとは言わなかった。でも真司のお母さんは真司とゆっくり過ごしたかっただろうに。
「この時間までどこに行ってたんだ」
言わなくてはいけないのだろうか。あの優しい時間のことを。
「生徒会長さんの部屋……」
やっぱり嘘はつけない。
「は? 守矢さん? 何でだよ」
「夕飯を一緒に食べた後……アイスを部屋で食べさせてもらって少しおしゃべりを……」
「おしゃべり? お前デリヘルでも始めたのか?」
口を歪めてそんなことを言う。
「デリ……ヘル……?」
「俺で覚えて小遣い銭くれる奴の竿咥えてんのかよ」
な、何言って。一瞬にして僕の頬に熱が走る。そんないやらしいこと。
「し、してないよ! なんでそんなこと」
真司は僕がすると思ってるのか。お金さえもらえば誰とでも口淫すると思って……。
「守矢さんの咥えてきたんだろ?」
「違う!」
あんまりだ、僕にも守矢さんにも。
「まあどっちでもいいや、今日も奉仕しろよ」
ちゃんと弁解できないまま話が終わる。違うことを証明するためには守矢さんに抱きしめてもらったことを言わけなればならないが、そこまで真司に話す気になれなかった。守矢さんの優しさは僕と守矢さんだけのものにしておきたかった。きっと守矢さんだって他人に言ったりはしないだろうから。
だから僕は黙って真司の足元に跪いて真司のジーンズの前を寛げた。
「波瑠、明日と明後日は部屋から出さないからな。ずっと俺の足下で咥えてろ」
「え?」
柔らかい真司の性器に触れた時、真司は耳を疑うようなことを言った。
「服は脱げ。部屋の中では何も着るな。飯は俺が買って来てやる。ああでも、どうせ周りに人はいないから素っ裸で寮を歩き回っても誰にも見られないな」
くすくすと笑う。
「なん……」
二の句が継げない。真司は何を言ってるんだ。
「咥える前に今脱げよ。待っててやるから」
「嫌、だ……そんなことできない」
「謝りたいんだろ? だったらできないなんて言えないよな?」
だけど……それは。服を着るなとか、食事を与えるとか、それは違う。
「僕は奴隷じゃない」
償いたくて真司の気が晴れるまでとは思うけど、真司の言うことはその範疇を越えている。
「奴隷だろ」
え?
「俺の言うことを聞くんだろ? 奴隷じゃないのか? 俺がいいと言うまでお前は拒否できない」
……もう。
駄目かもしれない。
今日一日楽しかったことは地獄への餞だとでもいうのだろうか。
立ち上がって真司の前で服を脱ぐ。下着も全部ってことだろう。脱ぐのなんて一分もかからない。裸になった僕は再び跪いて真司の性器を口に含んだ。
「今日は興奮しないのかよ」
唇で扱いていると頭につまらなそうな声が降る。真司へのフェラチオで僕自身が興奮して勃起しないことが面白くないのかもしれない。奴隷は勃起しないよ、真司。勝手にそんなことはできないだろ。
それでも真司のペニスは硬く膨らみ、僕は零すことなく吐き出された精液を飲み干した。
「うがい、してきていい?」
「ああ……お前」
「わかってるよ、このまま行くから」
僕は真司が死ねと言ったら死ぬんだろうか。立ち上がってドアを向く。真司はこういうのが見たいんだろう? 自ら辱められに行く僕を見るのが楽しいんだろう? 僕はお前の言う通り拒めない。裸なら部屋を出てもいいんだろう?
「待て、波瑠。服を着……」
背中に何か聞こえたけど、後ろ手にドアを閉めて廊下に出た。
帰省して殆どの部屋に人がいないし、その上消灯時間が過ぎて廊下は明かりが落とされひっそりとしている。小さなフットライトのみが点っていて。真司が言うように確かに人はいないし誰も僕を見ることはないだろう。
一糸纏わない姿で寮をうろうろしてたら退学になるんだろうか。素行不良とか情緒不安定とか。退学になるのはちょっと……それなら誰かのを咥えて口止めしたほうがいいだろうな。多分フェラチオは上手くなったと思う。真司の友達に会ったら咥えなきゃいけないんだろうし。
ぺたぺたと裸足で歩いていると少し先に影が見えた。共用の冷蔵庫だったかとぼんやりと考えていると。
「羽鳥君!?」
囁くようなとても小さいながらも緊張をはらんだ声が僕の名を呼んだ。
人、が……。それでも僕の足は止まることなく洗面所を目指して。
「守矢さ……ん」
黒い影の正体が少し見えて。着ているシャツのボタンを外しながら僕に駆け寄ってくる。ああ、知った人だった。
「どうしたの!」
守矢さんは腕を掴んで目の前の洗面所へ引っ張り込み、脱いだシャツで僕の体を覆うときつく胸に抱いた。僕は守矢さんのインナーシャツは黒なんだなとどうでもいいことを思って。
「ちょっとうがいを」
「何を言ってるの」
何、って間違ってない。だから洗面所に行きたいのだ。
「そんなことを訊いてるんじゃない」
ああ、何も着てないことかな。ふざけて脱いでみましたなんてへらへら笑って言った方がいいのかな。
「波瑠っ」
僕の背後でまた名を呼ばれた。これは真司だ。どうしたのだろう。後をつけてきたのか。僕に逃げる場所はないのに。うがいをしたいだけなんだけどな。
「羽鳥君は今晩部屋には帰さない。生徒会長としてこの子を保護する」
守矢さんは真司に言ってるのか。
「野間、お前に何の理由があるのかはわからないが、この件はとりあえず俺のところで留めておく。部屋に戻れ」
守矢さんの声は静かだが怒っていた。僕には声しか聴こえないから守矢さんと真司がどうなっているのかわからない。ただ、ゆっくりとした足音が遠ざかっていくのはわかった。
何も音がしなくなって、守矢さんは腕を解いて僕にシャツを着せてくれた。守矢さんのシャツは僕の上半身全てが隠れるほどの大きさで。
「羽鳥君、俺の部屋へ行こう」
「あの、うがいを」
「水は俺の部屋にもあるから。そこまで我慢して」
守矢さんの口調はいつもの優しいものに戻っていたけれど言葉は強くて。でも僕の口の中はまだ苦みが残っているし。
「僕はうがいをして部屋に帰らないと」
「しっかりして羽鳥君。これは虐待だよ。異常だ。君を野間のいる部屋へは帰せない」
虐待……?
突然のありえない、場違いだろう言葉に頭の中の霧が晴れたように意識がクリアになって。
「いや、これは僕が勝手に」
違うから。僕が言い出したことだから。真司は違うから。
留まろうとした僕の肩を強引に抱いて、守矢さんは僕を引きずるようにして二番館へ連れて行った。
昼は川崎とお好み焼きを食べて、夕食は守矢さんととって、そのあとデザートにアイスをいただいて、そして心の安らぎを与えてもらって。
真司の不在が嬉しいわけじゃない。でも真司と物理的に少し離れたことで僕は自分と向き合えて、楽しい時間を過ごした。きっとGW休暇が明けて真司が戻ってきたらまた真摯に向き合えると思う。
一番館の自分の部屋の鍵を開けて中へ入り、誰もいないから当然部屋は真っ暗で僕はドア横にあるシーリングライトのスイッチを入れる。風呂も入ってるからもう寝るだけで。明日は何をしようかなんてことは明日の朝考えよう。一人だから誰からも急かされることはないし自由に決められる。
「波瑠」
部屋が明るくなってふと視線を上げた先には。
「真司……!」
たまたま向けた僕のベッドの縁に真司が座っていた。大きな声を出しそうになるほど驚いて。
どうして。帰省したはずなのに。部屋の明かりもつけないで。
「随分とご機嫌だったな」
僕を睨みつける険のある口調に心が一気に冷えてしまって。僕は調子に乗ってたんだと思い知らされた。
夢のような一日はやっぱり夢だったのだと。それでいいのだと。ここが僕のいる場所なんだと。
「真司、家は……」
「誰が泊まるなんて言ったよ」
確かにそうだ。僕は帰る時間を聞いただけで、真司は実家で三日間過ごすとは言わなかった。でも真司のお母さんは真司とゆっくり過ごしたかっただろうに。
「この時間までどこに行ってたんだ」
言わなくてはいけないのだろうか。あの優しい時間のことを。
「生徒会長さんの部屋……」
やっぱり嘘はつけない。
「は? 守矢さん? 何でだよ」
「夕飯を一緒に食べた後……アイスを部屋で食べさせてもらって少しおしゃべりを……」
「おしゃべり? お前デリヘルでも始めたのか?」
口を歪めてそんなことを言う。
「デリ……ヘル……?」
「俺で覚えて小遣い銭くれる奴の竿咥えてんのかよ」
な、何言って。一瞬にして僕の頬に熱が走る。そんないやらしいこと。
「し、してないよ! なんでそんなこと」
真司は僕がすると思ってるのか。お金さえもらえば誰とでも口淫すると思って……。
「守矢さんの咥えてきたんだろ?」
「違う!」
あんまりだ、僕にも守矢さんにも。
「まあどっちでもいいや、今日も奉仕しろよ」
ちゃんと弁解できないまま話が終わる。違うことを証明するためには守矢さんに抱きしめてもらったことを言わけなればならないが、そこまで真司に話す気になれなかった。守矢さんの優しさは僕と守矢さんだけのものにしておきたかった。きっと守矢さんだって他人に言ったりはしないだろうから。
だから僕は黙って真司の足元に跪いて真司のジーンズの前を寛げた。
「波瑠、明日と明後日は部屋から出さないからな。ずっと俺の足下で咥えてろ」
「え?」
柔らかい真司の性器に触れた時、真司は耳を疑うようなことを言った。
「服は脱げ。部屋の中では何も着るな。飯は俺が買って来てやる。ああでも、どうせ周りに人はいないから素っ裸で寮を歩き回っても誰にも見られないな」
くすくすと笑う。
「なん……」
二の句が継げない。真司は何を言ってるんだ。
「咥える前に今脱げよ。待っててやるから」
「嫌、だ……そんなことできない」
「謝りたいんだろ? だったらできないなんて言えないよな?」
だけど……それは。服を着るなとか、食事を与えるとか、それは違う。
「僕は奴隷じゃない」
償いたくて真司の気が晴れるまでとは思うけど、真司の言うことはその範疇を越えている。
「奴隷だろ」
え?
「俺の言うことを聞くんだろ? 奴隷じゃないのか? 俺がいいと言うまでお前は拒否できない」
……もう。
駄目かもしれない。
今日一日楽しかったことは地獄への餞だとでもいうのだろうか。
立ち上がって真司の前で服を脱ぐ。下着も全部ってことだろう。脱ぐのなんて一分もかからない。裸になった僕は再び跪いて真司の性器を口に含んだ。
「今日は興奮しないのかよ」
唇で扱いていると頭につまらなそうな声が降る。真司へのフェラチオで僕自身が興奮して勃起しないことが面白くないのかもしれない。奴隷は勃起しないよ、真司。勝手にそんなことはできないだろ。
それでも真司のペニスは硬く膨らみ、僕は零すことなく吐き出された精液を飲み干した。
「うがい、してきていい?」
「ああ……お前」
「わかってるよ、このまま行くから」
僕は真司が死ねと言ったら死ぬんだろうか。立ち上がってドアを向く。真司はこういうのが見たいんだろう? 自ら辱められに行く僕を見るのが楽しいんだろう? 僕はお前の言う通り拒めない。裸なら部屋を出てもいいんだろう?
「待て、波瑠。服を着……」
背中に何か聞こえたけど、後ろ手にドアを閉めて廊下に出た。
帰省して殆どの部屋に人がいないし、その上消灯時間が過ぎて廊下は明かりが落とされひっそりとしている。小さなフットライトのみが点っていて。真司が言うように確かに人はいないし誰も僕を見ることはないだろう。
一糸纏わない姿で寮をうろうろしてたら退学になるんだろうか。素行不良とか情緒不安定とか。退学になるのはちょっと……それなら誰かのを咥えて口止めしたほうがいいだろうな。多分フェラチオは上手くなったと思う。真司の友達に会ったら咥えなきゃいけないんだろうし。
ぺたぺたと裸足で歩いていると少し先に影が見えた。共用の冷蔵庫だったかとぼんやりと考えていると。
「羽鳥君!?」
囁くようなとても小さいながらも緊張をはらんだ声が僕の名を呼んだ。
人、が……。それでも僕の足は止まることなく洗面所を目指して。
「守矢さ……ん」
黒い影の正体が少し見えて。着ているシャツのボタンを外しながら僕に駆け寄ってくる。ああ、知った人だった。
「どうしたの!」
守矢さんは腕を掴んで目の前の洗面所へ引っ張り込み、脱いだシャツで僕の体を覆うときつく胸に抱いた。僕は守矢さんのインナーシャツは黒なんだなとどうでもいいことを思って。
「ちょっとうがいを」
「何を言ってるの」
何、って間違ってない。だから洗面所に行きたいのだ。
「そんなことを訊いてるんじゃない」
ああ、何も着てないことかな。ふざけて脱いでみましたなんてへらへら笑って言った方がいいのかな。
「波瑠っ」
僕の背後でまた名を呼ばれた。これは真司だ。どうしたのだろう。後をつけてきたのか。僕に逃げる場所はないのに。うがいをしたいだけなんだけどな。
「羽鳥君は今晩部屋には帰さない。生徒会長としてこの子を保護する」
守矢さんは真司に言ってるのか。
「野間、お前に何の理由があるのかはわからないが、この件はとりあえず俺のところで留めておく。部屋に戻れ」
守矢さんの声は静かだが怒っていた。僕には声しか聴こえないから守矢さんと真司がどうなっているのかわからない。ただ、ゆっくりとした足音が遠ざかっていくのはわかった。
何も音がしなくなって、守矢さんは腕を解いて僕にシャツを着せてくれた。守矢さんのシャツは僕の上半身全てが隠れるほどの大きさで。
「羽鳥君、俺の部屋へ行こう」
「あの、うがいを」
「水は俺の部屋にもあるから。そこまで我慢して」
守矢さんの口調はいつもの優しいものに戻っていたけれど言葉は強くて。でも僕の口の中はまだ苦みが残っているし。
「僕はうがいをして部屋に帰らないと」
「しっかりして羽鳥君。これは虐待だよ。異常だ。君を野間のいる部屋へは帰せない」
虐待……?
突然のありえない、場違いだろう言葉に頭の中の霧が晴れたように意識がクリアになって。
「いや、これは僕が勝手に」
違うから。僕が言い出したことだから。真司は違うから。
留まろうとした僕の肩を強引に抱いて、守矢さんは僕を引きずるようにして二番館へ連れて行った。