「っぐ……ぅ……」
 頭の後ろを掴まれぐっと前へ押されると、喉に真司(しんじ)の陰茎の先が当たった。喉を突かれた衝撃に反射的に離れようとしたものの、頭は掴まれたままで。
「逃げんなよ、ちゃんとしゃぶれよ」
 頭の上から真司の楽しそうな声が降ってくる。
 再び突かれれば恐らく嘔吐くだろうと恐怖でいっぱいになったがそれ以上はなく手は頭を離れた。
 僕は舌で丁寧に舐め、口に頬張って唇で真司の陰茎を扱いた。口淫、フェラチオを。
「一週間やっても上手くなんねえのな、俺のいいとこ早く覚えろよ、俺だって暇じゃない」
「ごめ……」
 真司が気持ち良く呻く場所はわかってるつもりだ。興奮してくれば僕の髪に触れてくるし、堪えるような呻きに艶が出てくる。僕の舌で感じてくれてるんだとわかる。
 今だって口の中の真司はどんどん大きく硬くなってその先からは透明な液体が染み出している。きっともうすぐ達くだろう。僕の顎が疲れを感じ始める頃、真司は少し苦しそうに息を詰めて僕の名を呼ぶのだ。
「波瑠(はる)……イく……っ……離れん、な……っ……」
 僕を真司の精液が犯す。口の中いっぱいに生ぬるくてややねっとりとしたものが広がる。
「ちゃんと飲めよ、絶対出すな」
 小さな荒い呼吸でそう言うと僕の頭を再び掴み、今度は引き剥がした。
 喉奥に青臭さを感じてこのままでは嘔吐いてしまう。吐き出したくてたまらなくなる。早く飲み干さねば。意識を遮断し息を止め、無心で一気に嚥下する。
 吐き出せば床を汚すし制服も汚してしまう。二度目、つまりフェラチオを初めてした翌日、上手く飲み込めずに零してしまった。
 烈火のごとく怒った真司は僕に服を脱げと言い、何も身につけない姿で床に一時間正座させた。真司しか見ていないとはいえ尋常じゃない状況に羞恥心を殺すことはできず何度もやめさせてくれと懇願したが真司は聞き入れなかった。
 もうあれは二度とやりたくない。だから何が何でも飲み干すしかなくて。鍵の掛けられた部屋の中とはいえ、いつ誰がノックするかわからない。そんな姿を見られれば妙な噂が立つし、最悪退学だ。僕も真司も。いや、真司は大丈夫か。僕に脅されたとかなんとか上手く言うだろう。
「飲んだんなら俺の竿をさっさと拭け」
 口の中に苦みを残したままのろのろと立ち上がって、準備していたウェットティッシュを手に取る。僕の唾液や精液がついた真司の陰茎を綺麗に拭き取って、くつろげた真司のジーンズをもとに戻して。
「やることやったらさっさと口をゆすいでこい。やった跡を残すなよ?」
「うん……」
 気遣いでもなんでもない。この部屋で行われたことは誰にも口外せずバレるなということだ。温かみのない声がすべてをものがたる。
 扉を開けたら僕は淫猥なことなどなかったかのようにしゃんとして洗面所へ行かなきゃいけない。
「洗面所行ってくるね」
 背筋を伸ばし、部屋のドアを開けた。
 そこは寮の廊下で、みんなが夕食後のくつろいでいる時間で。部屋のドアを開けて誰かとおしゃべりしていたり、風呂道具を持って風呂へ行こうとしていたり。楽しそうな表情でそれぞれの時間を過ごしている。
 あまりにも僕の、僕と真司の部屋とは空気が違う。黒くて、重い空気で満たされているのが僕たちの部屋だ。置かれている机やベッドはみんな一緒なのに。僕たちだけが違う。
 僕は誰もいない洗面所で顔を洗い、うがいをした。
 顔を上げて鏡に映る自分は普通だろうか。誰からも怪しまれない、相部屋の奴と仲良くやれている一年生。そう見えているだろうか。酷く暗い顔をしていれば誰かに心配される。そこから綻びが生まれて真司とのことがバレてしまう。それは絶対に許されないことだった。僕から誰かに話すなんてことは言語道断。
 真司はベッドの縁に座り、僕は真司の足元に跪いて。
 夕食後のいつものことだった。誰も知らない、二人の秘め事。
 この四月に高校生になって、全寮制の学校に進学して。相部屋となった野間(のま)真司への口の奉仕は、一応合意の上だ。望んだことではないが拒否はできない。それは僕の償いで罰。
 真司が望むように。僕が許されるのではなく、真司の心が救われるように。
 だから、終わりはない。僕が終わりを決めることはない。