「何その恰好。一人だけ秋じゃん」
「え」

一緒に出掛ける約束をしていた里佳子が、薄手のトレンチコートに帽子をかぶった私を指さす。

「だって寒いし。もう11月になるし」

最近の気温は温度差が激しくて、夏が長かった。
でも暦上からすれば、もう秋だし、空気だって秋のものだから、私の格好は何もおかしくはない。

「私はまだ暑くたってへっちゃらな感じなのにさぁ。寒くなったのはわかるけど、まさか朝から置いてけぼりを食らうとは思ってなかった」
「ええ?」

「普通さ、外に出て気づくでしょう?あ、私の格好季節外れになってるわって」

外に出た時、春なのに冬の格好だったとき。夏なのに春の格好をして、暑さや寒さに悩んだことを言いたいらしい。

「なるほどね。でもそれなら気づけてよかったじゃん。まだ家だから着替えられるよ」
「そうなんだけどぉ…衣替えもまだしてないの」
「ってことは出すのが大変ってこと?」
「そう!しかも秋服ない!」

去年までお気に入りの服が、今年見てみるとなんか違う現象にも里佳子は陥っているらしい。

「こういう時に定番の服持ってると助かるよね。ゆるぎないブランドというか。高い物とかじゃなくて」
「ああね」

里佳子はクローゼットの奥にある衣装ケースを見て嘆く。
するとシンプルなパーカーをむんずと掴み、シャツの上から袖を通した。

「定番、買いに行くか!これからは毎年少しずつ着まわせる上質な女になる!」
「私服の制服化ってかんじ?」
「そうそう!ほら早く!」

少し先の冬が終わるころ、私はまた里佳子と、春の定番服を買いに行くことになる。