私が18歳で、専門学校に通っていた時、同じく一緒に通っていた28歳の美幸姐さんはこういった。

「30過ぎたらお肌の曲がり角なんやで」

大阪弁のなまりがあり、身近な大人だった彼女の説得力がある言葉は私に数多くの格言を残した。
実際に、20代から30代に近づくにつれて、肌はみるみる私の期待を裏切っていった。

若いときにこそ、スキンケアはきちんとしろ。水分は大事だ。
私があげた美容シートをものすごく喜んでくれた美幸姐さんの言葉を。
どうして聞かずにプチプラ化粧水をケチって使ってたんだと、プチプラなんだから思いっきりパシャパシャしろと。
今の私の肌は泣いていると、20代のころの自分をはたき倒して教えてあげたい。

「就活は婚活。どんな人が働いててどこから来てる人が働いてるかは要チェックせなあかん」

私が就活に張り切っているとき、美幸姐さんが見ていたのは仕事の内容などではなく、職場のある土地性だった。

「なんで?どんな職場か、どんな仕事かとかは見ないの?」
「それはこの業界なんやからある程度は限られてるし、見るやんか?だからボヤッとしてていいねん」

18歳で、バイト経験はあるものの社会に出たことはない。仕事に夢を見ていた私は美幸姐さんの言うことがしっくりこなかった。

「そうかなぁ。どんな経験積めるかも気になるけど」
「その気持ちもわかる。でもな、経験なんてどこでも詰めるねん。まあそれが好きなとこやったらいいけど。でも恋愛もしたいやろ?」

まあそれはしたい。できればしたい。恋も仕事も頑張りたいお年頃なので、と正直に頷いた。

「そういう時に、女性ばっかりの職場だったら出会いないやん!外に出なくなったら職場しかないやろ?だからみんな職場恋愛で結婚することが多いねんで」

それを聞いたとき、妙に納得してしまった。

「確かに……私のお父さんたちも職場恋愛だ」
「やろ?まあ出会いの幅って狭くなるから。まあ単純に男の人2.3人はおったほうが平和なんやで」

その先の答えは、少しだけ想像がついた。

「人数の規模にもよるけど、女の人ばっかりやって、性格合わんかったらぎすぎすすることもあるやろ?」
「うん」
「だから猫かぶってもらうために、男の人はおったほうがいいねん。それがかっこよかったら、さらにいいけど。ま、でもそこ狙うよりかは、そこの友達繋げてもらう可能性も考えるねん。わかった?」
「わかった」

就職する会社の必須リストに、美幸姐さんの教えが書き加えられたのは言うまでもない。

美幸姐さんの言葉は、今も私の心に残っている。
出会いのためではなく平和のためにも、転職活動するときは必ず男性もいるところを選ぶし、毎日化粧水を使う時に、ちょっと手早くしてしまう自分を諫め、心の底から浸透して!と念じながら、顔になじませている。