スマホを取り出して、掃除をしている時よりも小さい音量で洋楽を掛ける。
邦楽よりも、誰かの心の傷を抉る可能性が少ないから。
誰かががいる時は、洋楽にしていた。
パタパタと二人分の足音が聞こえて、ルナの方が正しかったことが証明される。
田畑様も、私と同じタイプだということだろう。
キッチンの入り口からヌッと出てきた顔は、困惑が見てとれた。
助け舟を出すにも、思いつかないので場所を開ける。
作業台の前のイスに座って、もたれ掛かれば、ぺこりとお辞儀された。
「フォーク刺して、この火で炙ってください!」
田畑様に説明しながら、ルナがやってみせる。
氷水を用意するのを忘れてるから、冷蔵庫を開けてガラガラと氷を取り出した。
外の熱風のせいでほてった体が、冷蔵庫の冷風で冷やされていく。
気持ち良くて、目を細めていれば、ルナに目線で怒られた。
「へいへーい」
ふざけて答えながら氷を入れたボウルに、水を張る。
田畑様が炙ったトマトを氷水の中で剥いて、だし汁に放り込む。
ぷかぷかと浮かぶ涼しげな赤色に、目を細める。
「田畑さんは、いくつですか? 私たちより若そうに見えますが」
ルナがぐいぐい言ってるのを横目に、話に聞き耳を立てる。
田畑様の声は微かで、なかなか聞き取りにくい。
ルナと話していくうちに、ふっと緊張の糸が切れたように田畑様は肩の力を抜いた。
ルナらしいというか、うまいというか。
あと先考えないくせに、大体うまくいくのだから、ルナの人生というものは良いものだろう。
「えっ、そうなんですね!」
ルナの大きな声に顔を上げる。
私の方を、二人してじっと見つめていた。
首を傾げれば、ルナの言葉で大体の予想がついた。
「しがないハンドメイド作家です」
「えー、どんなの作ってるんですか?」
田畑様の声がやっと、はっきり耳に届いた。
ルナはもう心の中に忍び込んだのか。
「たぬきのぬいぐるみとか」
答えれば、田畑様は「あっ」と小さく呟く。
田畑様の部屋にあった、たぬきのぬいぐるみも、テーブルも私の自作だ。
【夜空荘】という名前のここに合うイメージで作っている。
ネット販売もしているけど、まぁそこそこの売れ行きだった。
「すごいですね、手先が器用……」
器用ではない。
雑だとルナに評価されるほど、大雑把な人間が手先が器用なわけがない。
それでも、作ることが好きだと気づいてからは、楽しくやれてる。
「どうしてハンドメイドを?」
トマトの皮をあちちっと剥きながらも、田畑様の視線は私の手元に釘付けだ。
興味を持たれることは、嫌ではない。
けど、なんだか、変な感覚がする。
「二人でゆっくり話しててよ! はい、自家製のブルーベリーミルクでーす!」
カロンと氷がぶつかり合う音がして、私たちの手元の野菜はルナに奪われた。
目の前には、私が作ったブルーベリーで作られたドリンク。
ブルーベリーを育てたいとワガママを言って、無理矢理庭に植えさせてもらった。
ちゃんと手を掛けてやれば、ブルーベリーはスクスクと育ち、収穫できる量くらいは実らせてくれる。
もう、ここに来てそれほどの年月が経ってることに気づいて、ふっと笑ってしまった。
「えっと」
私が一人で思案してるうちに、田畑様はワタワタと私とルナを見比べていた。