「お行儀悪ーい!」
「アカリが開けてくれないからでしょ、はい持って!」

 ずいっと差し出された片手のエコバッグを持ってば、思ったよりも重たい。
 落としそうになるのを踏ん張って、持ち上げる。
 キッチンに運んで、作業台の上に乗せればルナももう一袋をぽんっと軽々しく置いた。

「田畑様いらっしゃったよ」
「先に行ってよ!」
「夜ご飯とお風呂の案内はしたから、大丈夫」

 丸を指でつくって突きつければ、ルナは疑り深そうな目で私を見つめる。

「大丈夫だって、わかってるから」

 そう告げれば、むっと唇を一文字にして閉じる。
 私だって、同じようにここに来たんだから、わかってるよ。

「まぁ、わかってるならいいけど。今日は、暑いからさっぱり食べれるやつね」

 ルナの言葉にこくこくと頷く。
 ペンションの中にいると、冷房が効いてるからあまり気づかなかったけど。
 買い物から帰ってきたルナの額は、汗をかいていた。

 エコバッグから買ってきたものを取り出して、ルナの手にぽんぽん渡していく。
 ナスに、タコ、アスパラガス。
 ナスと、来た時点で大体の予想はついた。
 豆腐はお味噌汁だろう。

「あ、トマトとネギ、取ってきてよ。しまっておくから」
「やっぱりー?」
「やっぱりってなに」
「揚げ浸しでしょ」

 ぴしっと人差し指を突きつければ、空いている左手で私の人差し指を包み込む。

「人を指ささない!」
「はーい」
「トマトとネギね」

 キッチンバサミを、右のポケットに突っ込んで裏庭へと続く扉を開ける。
 じわじわと陽射しが突き刺して、暑い空気が頬にぶつかった。
 私が来たのも、こんな暑い夏の日だったな。

***

 夏だというのに、あまりの寒さに凍えそうになる。
 重たい瞼を開ければ、見覚えのない部屋。
 蓄光シールだろう星が、天井でキラキラと反射している。
 布団から抜け出せば、窓の外には虫が飛んでいた。
 オレンジ色の光が目に染みて、顔を顰めてしまう。
 テーブルの上にあったリモコンで、効きすぎた部屋の冷房を止めた。

 私は、ペンションに来たんだ。
 全てに疲れて、自然の中で過ごそうと思って。
 夏といえば、山。海。川。
 父の血を引いてるなと思ってから、顔を顰めてしまう。