早く起きたせいか、眠気が襲ってくる。
 ふわぁっとあくびをすれば、扉のガラス越しに誰かと目が合ってしまった。
 ごくんっとあくびを飲み込んで、時計に目をやる。
 お客様にしては到着予定時刻より、だいぶ早い。

 掃除機を止めて、扉を開ければ爆音が耳に刺さったようで一瞬顔を顰められる。
 慌ててスマホをたぐりよせて、音楽を止めた。
 パッと顔を上げれば、やっぱりお客様らしい。
 もしくは、どこかの宿を探してる迷い人。
 大きなキャリーケースに、困惑した表情。

「あの、早く着いちゃったんですけど、大丈夫ですか?」

 うん、お客様だった。
 臨機応変に対応できるのが個人経営の良いところだよね。
 うんうんと一人で頷いていれば、「あのー」ともう一度声が耳に入った。

「あ、すみません。大丈夫ですよ。本日ご予約でしたか?」
「はい、ネットから予約した田畑です」

 掠れて消えていきそうな声に、むふっと笑顔を作る。
 このペンションに、来た時が懐かしくなった。
 ルナから見た私も、こんな感じだったのかもしれない。

 どの季節もぽつり、ぽつりとまばらに訪れるお客様は皆何かを抱えて、このペンションに訪れる。
 ペンションに憧れて、星空に夢を抱いてくる若人も。

「お部屋にご案内します。お荷物お持ちしますよ」
「あ、でも重たいので……」
「こう見えて、私力持ちなんです」

 Tシャツの袖をたくしあげて、むきっと拳を握りしめる。
 まぁ、筋肉が見えるほどには、ついていないんだけど。
 お客様は困ったように「は、はぁ」と言ってるから、すぐにポージングはやめた。
 そして、キャリーケースを持ち上げて二階へと運ぶ。

 階段を登ってすぐ、201と扉に書かれた部屋を指し示す。
 今日、朝から私が布団からカーテンから全て洗濯した一番整えられてる部屋だ。

 扉を開けて、中を見せれば「わぁ」と感嘆のため息が聞こえて、胸を張りたくなった。
 贅沢にダブルサイズのベットには、紺色のシーツと、お揃いの掛け布団。
 枕元には小さなたぬきのぬいぐるみ――これは完全に私の趣味――。
 テーブルは星空を閉じ込めたような透明なもので、下に敷いてあるカーペットは、濃いブルーのグラデーション。

「星空の中みたい」

 小さくお客様――田畑様――がつぶやいた言葉を、聞き逃さなかった。
 ルナだったらグイグイ距離感を詰めるだろうけど、私は違う。

「どうぞごゆっくりおくつろぎください。お風呂は、十九時以降予約制です。ごはんは、十八時からです、先ほどのリビングに降りてきてくださいね」

 部屋の中をしげしげと眺めていた田畑様が、ハッとして私の方を振り返る。
 
「あ、はい」

 こくこくと何度も頷いてるのを見てから、扉を静かに閉めた。
 車のぶるるるんっという音が聞こえたから、階段を一段飛ばしで降りる。
 両手にエコバッグを持ったルナが、玄関を足で開けていた。