その後、胸を押さえる翼を心配する三澤に家に戻されかけたが、大丈夫だと言い張り、正午過ぎにふたりでレオニーランドにやってきた。
 三澤は十三時からのショーがあるので準備に入っている。翼はショー施設の隣のカフェで時間を潰していた。

「あれぇ、大塚じゃん」

 すると、新たに店に入ってきた女性と男性の六人組に声をかけられた。クラスメイトだ。

 一学期の間、まともに話したこともないのに、彼らは翼が座っている二人がけテーブルの横の並びのテーブルに、当然のように腰を下ろす。

「大塚、誰と来てんの?」

 クラスで中心的な存在だと認識している男子の天宮(あまみや)にさらりと問われて、「あの、三澤君と」と緊張しつつ答えると、天宮はアイドルのように整った顔ですぐに頷いた。

「ああ、ふたりはいつも一緒にいるもんな。ってことは、レオニーショーの時間待ち?」
「え?」

 三澤がショーに出ていることを知っているようだ。

「あたしたちもさ、ショーの整理券買ったんだ。びっくりしちゃった。夏休み入ってすぐにここに遊びに来てさ、子供だましのショーなんて、って思ったけど涼みたくて入ったわけ。そしたら三澤がキャストにいるじゃん!」

 他の生徒も「だよな」「そうそう」と頷いた。

 皆が知っていることに驚きつつ、彼らが今にも笑い出しそうな表情をしていて、翼は皆が三澤を馬鹿にしているのかと思った。

「でさ、三澤ってば、めちゃくちゃカッコいいもんだから!」

 けれど違った。皆、次々と三澤を賞賛する。

「ハマっちゃったよね。まさか三澤がレオニーレッドやってるとは思わなくて、髪もそういうことね、へえぇ、ってさ」
「動きもキレキレだよな。ガタイもいいからプロみたい。あれはバエるわ」

 翼は彼らの言葉使いや、豪速球のキャッチボールのように交わされる会話についてはいけないものの、三澤のことで楽しく盛り上がられると嬉しくなる。翼も口が滑らかになり、皆と学校の課題や夏休み明けのテスト、行事などの話もして打ち解け、開場時間になれば皆で一緒に施設に入った。


 ──三澤君、すごい……!

 翼がショーを見るのは約二週間ぶりだ。毎日ショーがあったからなのか練習時間が取れていたからなのか、この短い日数の間でも三澤のアクションは他のレオニーヒーローズに引けを取らなくなっている。
 レッドがヒーローズのリーダー的存在であるにしても、レッドへの声援はずば抜けて多く、人気も上がっていることにも気づいた。
 知らず知らず肌が粟立っている。

 それにしても、子どもに加えて若い女性の声援の多いこと。クラスメイトの女子も手を振ったりして興奮している。

 レオニーヒーローズは変身前の素顔でも演技をするため、唯一正真正銘の若者である三澤はその点でも大人気にのし上がったようだ。ショー後の撮影ではマスクを脱いだ状態での撮影を申し込む女性が多く見受けられた。
 クラスメイトの女子などは、知り合い特典だと言いながら三澤と腕を組んでいる。

 それを見ていると、翼の手は無意識に胸の真ん中をさすっていた。心臓ではないが、みぞおちの少し上あたりが重苦しい気がする。

 ただ撮影が終われば感じなくなったし、特別にショーの合間のスタント練習を見学させてもらえ、夕方のショーが終われば三澤と一緒に妹たちを迎えに行った。
 夕食は、昨夜泊まらせてもらったお返しにと、翼の母親が振る舞った料理を皆で囲んだ翼は、楽しい夏の思い出が増えた二日間を満足して終えたのだった。