気付けば、試合は進み、いよいよ優勝が目の前に見えてきた。あと一歩。でもそこを焦って取りに行っては足下をすくわれることを、選手たちはよく知っている。たった一点で大きく試合が変わるのがバレーボールだ。最後の一点を取るまで、決して油断は許されない。
「一点だ。一点ずつ行こう!」
先ほどから合い言葉のように高山がみんなに伝えている。当たり前のことを当たり前に確認して、はやる気持ちをなんとか抑えつける。一点ずつ。一点ずつ。
空のスパイクが決まり、24点目が夕陽ヶ浜学園に入った。マッチポイント。あと一点を取れば、夕陽ヶ浜学園の勝利が決まる。だが、相手も23点を取っている。つまり、次の一点を取られればデュースに持ち込まれる。
空がサーブに下がった。必然的に翔太は前衛に上がってくる。まるで、2年前のあの大会で、空が最後の一点を決めた時のようだった。あの頃は空が1年生だったが、時を経て、翔太がこの大舞台で1年生ウイングスパイカーとして、前衛に上がってきた。
これもまた運命なのかもしれない。サーブに下がる空と一瞬目が合った。空は一度だけ大きく頷くと、サーブゾーンに向かう。焦るな、落ち着け、大丈夫。きっとそんなことを伝えたかったはずだ。
ホイッスルが鳴る。一瞬の静寂の後、空の力強いサーブが相手コートに打ち込まれた。この局面で、こんなにも正確にサーブを打ち込めるのが本当にすごいと思う。それでも、もう後がない相手は、なんとか食らいついてボールを上げた。体制を立て直し、スパイクモーションに入る。相手のウイングスパイカーに上がったトスは、綺麗に弧を描いていた。
まるでスローモーションに見えた。相手のスパイクは、こちらのブロックに当たり勢いが弱まった。ボールの落下地点には、既に空がかまえていた。空によって綺麗にあげられたボールは、セッターの三浦の手に吸い込まれた。翔太は懸命に叫んだ。自分に持ってこい、自分に上げろ、最後の一点を絶対にここで決めてやる。
思いが届いたのか、三浦はトスの行く先を翔太に決めた。これ以上無いほど丁寧に繋がれたボール。あふれそうになるいろいろな思いを胸に、翔太は思いきり高く飛び上がった。
「行け!翔太!!!」
これまで聞いたことないような大きな空の声が聞こえたと同時に、翔太はおもいきり腕を振り下ろした。手のひらにヒットしたボールは、相手のコートを斜めに切り裂くようにして打ち込まれた。
気付けば、試合終了を告げるホイッスルが鳴り響き、会場は大歓声に包まれていた。あちこちから走ってきた部員たちにもみくちゃにされながら、翔太は泣いていた。もみくちゃになった輪の中で、空がすぐそばにやってきた。泣いている翔太を笑いながら、空も泣いていた。
夕陽ヶ浜学園男子バレーボール部は、大激戦の末、2年ぶりに全国の頂点に立った。