ギャル——、もとい健一の浮気相手の名前は、杉浦美月というらしい。
広島に住む二十五歳。専門学校を出て飲食系の仕事についたが、体調を崩して退職。そこからはずっと実家暮らしで、派遣のバイトをつなぎながら生活していた。
健一と知り合ったのは一年くらい前のこと。そこから、健一が転勤で大阪に戻ってくるまでずっと付き合っていた。というより、美月的には健一が大阪に帰ったあとも遠距離で付き合っているつもりだったらしい。
私が住んでいるこの部屋にも、半年前に健一に連れられてきた。そのときに、洗面所に女性用の化粧水が置かれているのを見て健一の浮気を疑ったとか。
「ケンちゃんと付き合ってて、正直、ちぃーとおかしいなって思うこともなくはなかったんよ。この人、あたし以外にも女いるんかもしれんって。それでもふたりで会ってるときは優しいけえ、おかしなことには気付かんフリしてた。だけどあたしは、初めからケンちゃんの浮気相手でしかなかったんよね」
私が健一との今までの関係やこの家を出て行った経緯を話すと、美月がへへっと泣き笑いする。悲しそうにそう語った彼女は、たぶん本当に健一のことが好きだったのだと思う。
清楚系の中条さんとはタイプが違うけど、美月だってわりと整った顔立ちをしている。わざわざ遠くから追いかけてきてくれるような子をだまして泣かせるなんて、健一はひどい男だ。
下を向いて目元を拭う美月に同情していると、彼女が突然、ぐぅーっとお腹を鳴らした。
「あ、ご、ごめんなさい……」
シリアスな空気の中で響いた間抜けな音に、美月が顔を真っ赤にしてさらにうつむく。
「私が作った夜ごはんの残りで良ければ食べる? オムライスとポテサラなんだけど」
ポテサラは明日の朝ごはんにも回せるように。チキンライスは冷凍しておいてまた使おうと思って多めに作ってある。
同情ついでにそう言うと、美月が遠慮がちに視線をあげた。
「いいんですか?」
「いいよ。もうなんでも。もう、ついでに泊まっていったら?」
半分ヤケクソ、半分同情でそう言うと、膝に手をついて前のめりになった美月が、私を見あげて目を輝かせた。
「うわ、ありがとう! 奈月さん、めっちゃいい人!」
いい人……、か。私は別に、そんなにいい人じゃない。どちらかというと、ひとの良い人。
最初は敬語混じりで話していた彼女の言葉遣いは、今はもう完全に崩れている。人懐っこい性格なのか、厚かましいのか。たぶん、その両方だ。
広島に住む二十五歳。専門学校を出て飲食系の仕事についたが、体調を崩して退職。そこからはずっと実家暮らしで、派遣のバイトをつなぎながら生活していた。
健一と知り合ったのは一年くらい前のこと。そこから、健一が転勤で大阪に戻ってくるまでずっと付き合っていた。というより、美月的には健一が大阪に帰ったあとも遠距離で付き合っているつもりだったらしい。
私が住んでいるこの部屋にも、半年前に健一に連れられてきた。そのときに、洗面所に女性用の化粧水が置かれているのを見て健一の浮気を疑ったとか。
「ケンちゃんと付き合ってて、正直、ちぃーとおかしいなって思うこともなくはなかったんよ。この人、あたし以外にも女いるんかもしれんって。それでもふたりで会ってるときは優しいけえ、おかしなことには気付かんフリしてた。だけどあたしは、初めからケンちゃんの浮気相手でしかなかったんよね」
私が健一との今までの関係やこの家を出て行った経緯を話すと、美月がへへっと泣き笑いする。悲しそうにそう語った彼女は、たぶん本当に健一のことが好きだったのだと思う。
清楚系の中条さんとはタイプが違うけど、美月だってわりと整った顔立ちをしている。わざわざ遠くから追いかけてきてくれるような子をだまして泣かせるなんて、健一はひどい男だ。
下を向いて目元を拭う美月に同情していると、彼女が突然、ぐぅーっとお腹を鳴らした。
「あ、ご、ごめんなさい……」
シリアスな空気の中で響いた間抜けな音に、美月が顔を真っ赤にしてさらにうつむく。
「私が作った夜ごはんの残りで良ければ食べる? オムライスとポテサラなんだけど」
ポテサラは明日の朝ごはんにも回せるように。チキンライスは冷凍しておいてまた使おうと思って多めに作ってある。
同情ついでにそう言うと、美月が遠慮がちに視線をあげた。
「いいんですか?」
「いいよ。もうなんでも。もう、ついでに泊まっていったら?」
半分ヤケクソ、半分同情でそう言うと、膝に手をついて前のめりになった美月が、私を見あげて目を輝かせた。
「うわ、ありがとう! 奈月さん、めっちゃいい人!」
いい人……、か。私は別に、そんなにいい人じゃない。どちらかというと、ひとの良い人。
最初は敬語混じりで話していた彼女の言葉遣いは、今はもう完全に崩れている。人懐っこい性格なのか、厚かましいのか。たぶん、その両方だ。