僕の少し前を行く愛も、キョロキョロと辺りを見廻しながら歩いている。その度に背中では、一つに括られた髪がユラユラと揺れていて、僕はいつの間にか、無意識にそれを目で追う。

 僕は、ハッとした。

 いるではないか。3つの条件を全て兼ね備えたターゲットが。

 僕は胸ポケットから、ダーツの矢程の大きさの矢を抜き取る。小さくても効力は愛の矢と同じ。これをターゲットにプチっと挿すくらいは、肩を壊している僕にも出来る。

「ねぇ、愛くん」

 愛は立ち止まり、振り返る。

「はい?」
「君の髪、長くてキレイだね」
「そうですか?」

 愛は、毛束にスッと指を滑らす。

「弓をやるのに、その髪は、邪魔じゃない?」
「いえ、弓道は運動部に分類されますが、激しい動きはないので、纏めていれば大丈夫です」
「髪を纏めるのは、弓道の決まりみたいなものなの?」
「そうですね。暗黙の了解的なところはあります。弦に髪が当たると、危険ですので」

 真面目な顔で、質問に淡々と答える愛の隣に僕は立つ。

 プチッ。

 愛は、髪を触っていない方の手の甲を目の高さに上げた。

「どうかした?」
「いえ。なんだかチクリとした気が。……いえ、気のせいのようです」
「そっか。それより、きみ、真野くんに会いたいんじゃない?」

 僕の言葉に、愛は、ほんのりと頬を染める。

「何故でしょう? 私……」
「会いに行こうか」

 僕は、純が居る研究室へと愛を連れて行く。

「どうしました? こんな所まで」

 目を丸くする純。僕は、モジモジとする愛の背中を押して、純の前に立たせた。

「きみの条件を、総て兼ね備えた人だ」
「この人は、確か、事務所の……」
「そう。きみの運命の人だったみたい」
「そう……ですか」

 純は、マジマジと愛の目を見つめる。

 二人が無言で見つめ合っている間に、僕は、愛に刺した矢と対になっている矢を純の手の甲にサッと刺す。

 しばらくすると、純は、熱のこもった声を出した。

「僕は、あなたと、今すぐにでも結婚したい!」
「……はい。私もです!」

 愛は、胸の前で両手を組み、熱い視線を純に送る。

 晴れてカップルとなった二人は、僕へと向き直る。

「素敵な方をご紹介頂き、ありがとうございました。報酬はすぐにでもお支払いしますね」
「所長、私、この方の元へ永久就職することにしましたから、内定のお話は無かったことに」
「あ、ああ。うん、そうだね」

 二人に見送られ、僕は肩を落としつつ事務所への帰途につく。

 成婚率は落とさずに済んだけど……

 またアシスタント候補を探さなきゃ……

 僕の口からは、大きなため息が漏れた。







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