入ってきたのは、ヨレヨレのシャツに、皺々のズボン。髪はボサボサ。おまけに、無精髭まで備えた、見るからに、恋愛なんて興味ありません系男子だった。

 これは、もしかして、マンガ喫茶か何かと勘違いして来たのではないだろうか。

 念のために僕は、声を大にして、事務所名を名乗る。

「ようこそ! 結婚相談所キューピットへ」
「あの……、成婚率100%と言うのは、本当ですか?」

 先ほどばら撒いたチラシが握られている。相談者で間違いないようだ。

「あ〜、そうですね。まずは、こちらへどうぞ」

 僕は、先ほどまで、愛が座っていた、ソファへと男性を誘導する。

 やばい! 成婚率100%は、30年も前のデータだ。最近は、右肩下がりだが、そんなこと、馬鹿正直に宣伝に載せるわけないじゃないか。誇大広告だと言われる前に、急いで、実績を取り戻さなければ……

「え〜、結婚をお考えと言うことで宜しいですか?」
「そうです。出来れば、すぐにでも」

 意思確認をする僕の言葉に、男性は、少々食い気味に頷く。見かけによらず、結婚に随分と前向きなご様子。人を見た目で判断してはいけないですね。反省反省。

 僕は、相談者に向かって、ニッコリと微笑む。

「ずいぶんと、意欲的ですね」
「あの……、どのくらいで結婚できますかね?」
「どのくらいと言うのは、期間ですか? それとも費用ですか?」
「……両方です」
「そうですね。まず、費用ですが、こちらは、成婚時、つまり、ご結婚を決められた際に、報酬として20万円頂ければ結構です。それ以外の費用は、一切頂きません」
「えっ?」
「次に、期間ですが、お急ぎということであれば、1週間以内の成婚を目指します」
「ええっ?」

 男性は驚いているようだが、岡部愛の弓の腕前ならば、あっという間にカップル成立となるだろう。

「ちょっと、失礼」

 僕は席を外すと、デスクトップ画面で身を隠すようにして、椅子に座っている愛に向かって、小声で声をかける。

「愛くん。今回の件、やってみないか? インターンシップという形で。これが成功すれば、4月から、きみを正式採用したいと思うのだが?」
「正式採用……」

 彼女はしばし逡巡したのち、小さく頷いた。やはり、内定に惹かれたか。

 僕は、男性の元へと戻ると、事務所のシステムを軽く告げる。

「お相手に求める条件は、3つまで伺うことが出来ます。但し、どれか1つの条件を満たしているお相手をピックアップさせて頂くことになりますが、宜しいですか?」