「モテるだろ。俺はお前といると楽だし。ほかの奴もそう言うんじゃん?」

お前といると楽──いつかと同じ言葉だ。
当たり前だろう。俺は海斗が楽だと思ってくれるように察してるんだから。
好きな奴に好かれたいから、好かれるような俺を演じているだけだ。一緒にいると楽な奴が好きだと知っているから、そうしてるだけ。

本当は、お前の彼女みたいに、朝も昼も夜も束縛したいと思ってる。
もしこんなうそじゃなく、俺が海斗と付き合ったら、海斗の彼女みたいに『なんで連絡くれないの』『俺のこと好きじゃないの』『たまにはデートしてよ』そんな言葉を投げつけるな決まってる。

海斗が好きで、好きで、その気持ちを止められなくてどうしようもない。
好きじゃないふりをしていないと、お前は俺になんてなんの興味も持ってくれないって知ってるから、必死に我慢するしかないだけだ。

「前もそんなこと言ってた」

噴き出すように笑うと、海斗の手が伸びてくる。
一瞬、手を繋がれるのかと思って期待した。
でも、海斗は俺が渡そうとしたメモを受け取っただけだった。

「さっきの女子、なんか言ってたか?」
「いや、海斗に渡してってだけ」
「へぇ、それを素直に受け取って、恋人の俺に渡すのかよ。それはどうもアリガトウ」

海斗は目を細めながらメモをひらひらと振った。
俺はその顔を見てぞっとする。
海斗のこんな酷薄そうな笑顔なんて一度も見たことがない。開きかけていた扉を目の前で閉められてしまった。突然、そんな感覚に襲われる。

「海斗……っ」

呼びかけると、鋭い眼差しに射抜かれた。
そうしたら途端になにも言えなくなってしまった。

珠子に連絡をするのか。
好きだと言われたら付き合うのか。そしてあっさりと俺を振るのか。頭の中が嫉妬でぐちゃぐちゃだ。

本当の気持ちが知られるわけにはいかないのに、冗談で済ませられるようにしなければいけないのに、海斗の視線が離れていくことが恐ろしくてたまらない。

俺は今、どんな顔をしているだろう。
普通に話せているだろうか。

「帰る」

海斗は俺に背中を向けて足早に去っていった。
彼の背中は俺を拒絶している。

幼馴染みの王道テンプレなんて、男同士じゃ起こらないし、海斗は俺に親友以上の気持ちなんて抱いてない。
そんなの、海斗から彼女たちの話を聞いていた俺が一番よくわかってる。
それでも俺は、少女マンガの主人公のように、この恋を諦めきれなかった。

***

翌朝。
珍しく海斗がうちに迎えにきた。
いつもは違うその行動にピンと来る。

「……はよ」
「おはよう」

海斗は気まずそうに俺から目を逸らした。
もしかしたらという予感が頭をよぎる。