「なんで? 恋人がいるのに気があるってわかってる女子からのIDとか受けとんの?」

それじゃあ、本当に嫉妬しているみたいだよ。なまじ嫉妬だったとしても、海斗のは親友をとられてしまったような小さなものだろうが。

「これは違うよ。ところで海斗」
「あ? なんだよ」

金髪ピアスが上から目を細めて睨みつけてくるのだから、それは結構な迫力だ。
そんな風に凄んでいても、わりと傷つきやすくて優しいって知ってる俺は怖いと思ったことはないけど。

「俺のこと、ちゃんと恋人だって思ってくれてたんだね」

海斗の顔が一気に真っ赤に染まった。
恋人と言われて、海斗が意識せずにはいられないことを俺はよく知っている。この顔は俺に対して恋愛感情を持っているから出たものではない。
恋人と言われて、意識してしまっただけだ。
そう思うのに、俺の心はぐらぐらと揺さぶられた。珠子と俺の関係を疑って嫉妬してくれたならどれだけ嬉しいか。期待してしまいそうになる。

海斗は絶対に二股はかけない。何人もの女子と付き合ってたけど、きっちり別れてから次の子と付き合っていた。
眩しいくらい真っ直ぐで、曲がったことが嫌いなのだ。
信号は絶対に守るし、重いものを持った老人がいれば荷物を持ってあげる。外見が怖すぎて詐欺に間違えられることも多いけど。
だから、そのタイミングがいつになるかはわからないが、もし珠子と付き合うことになったら、その前に俺に別れを告げるはずだ。

「はい」

俺がメモを見せると、海斗が訝しげに眉を寄せた。

「さっきの子に頼まれたんだよ。海斗に渡してって」
「は? 俺?」
「海斗は忘れてるだろうけど、俺はモテないからね」
「モテない? お前が?」

驚く海斗がおかしかった。

「モテるように見える?」
「見える」

その言葉に驚いたのは俺だ。
おそらく俺のことを思い出せないから、優等生的なイメージでモテると言っているのかもしれないけど、俺は好き嫌いが激しいタイプであまり優しくない。
優等生に見えるように振る舞っているだけだ。
実はけっこう腹黒い、と知っているのは、記憶のある海斗くらいだろうか。

「なんで。俺、海斗みたいにカッコよくないし、優しくないし、女子ともほとんど喋らないから、モテないよ」

俺が優しくするのは、たった一人にだけ。特別な相手にしか優しくしたくない。