海斗はどうしていいかわからないって顔をしてる。
退院するまでの一週間、海斗からはなんの連絡もなかった。恋人の俺を放置したことに対して気まずく思っているのだと手に取るようにわかる。

「学校ではさ」
「お、おう」

海斗がびくっと肩を揺らした。
大型犬が小型犬に怯えているみたいで、ちょっと笑えてくる。

「なに笑ってんだよ」
「いや、海斗が気にするのもわかるけどさ。びくびくし過ぎ。べつに取って食いやしないって」
「なんで俺が食われる側なんだよ!」
「じゃあ、海斗が食ってくれるの?」

笑いながら目を向けると、海斗がわかりやすくたじろいだ。

「食うって、お前……なに言ってんのかわかってんのか!」

たぶんなんらかの想像をしたのだろう。海斗の顔が真っ赤に染まった。
もしかして俺を組み伏せてる想像でもしたかな。だったら嬉しいけど。
ただ、海斗と彼女の初体験を聞かされていた俺からすれば、この程度で赤くなる海斗が意外であった。嫌がる俺にしょっちゅう猥談を聞かせたくせに。

「そりゃわかってるよ。付き合うことになったとき、そういうの考えるのは普通じゃない?」

当たり前のように俺が言ったからか、海斗は目を見開いたまま固まった。
彼の喉仏が上下に動くのを見て、それ以上攻めるのは得策じゃないと悟り、話を変えた。

「さっき、言いかけたことだけど……」

俺が話を変えると、海斗は安心したように息をつく。

「クラスも違うしさ。学校では一緒にいないけどいいよね? 海斗は友達がいっぱいいるから困ったことがあれば助けてくれると思う」
「お前、クラス違うんだな」
「俺と海斗、幼稚園から一度も同じクラスになったことないんだよ。十三年間で一度も。びっくりだよね」
「へぇ~それなのに仲良かったのか?」
「仲がいいのとは違うんじゃないかな。同じグループで連んでもいないし、二人で遊びに行ったこともほとんどないよ」
「それでなんで付き合うことになるんだよ」
「さぁ、テンプレだったからかな?」
「天ぷら?」
「違う。テンプレ。テンプレが何度も続けば運命って言うのかも。これ以上なにも起きなければ終わるんだろうけど」
「空がなに言ってるか全然わかんねぇ」

海斗は呆れたように目を細めると、さっさと駅に向かって歩き出す。