そりゃそうだ。自分が男を好きになり、ましてや付き合っているなんて信じがたいだろう。彼女はいたが彼氏がいたことは一度もなく男は恋愛対象外である。

「お前が、俺のこと好きだって言うから、付き合ったんだぞ」
「……ガチで?」
「うん」
「そっか」

海斗は驚いていたものの、考え込むように宙をぼんやりと見た。
俺は内心ほくそ笑む。
金髪ピアスでガタイがよく強面な海斗だが、乱暴な口調とは裏腹に中身は驚くほどに単純で曲がったことが嫌い、そして誰よりも他人に優しい。
海斗は幼い頃から力が強かった。だからこそ、その力を他人に向けるなと、誰かを守ることに使いなさいと教えられていた。その教育のたまものだろう。
困っている人がいたら放っておかない。見て見ぬふりをする俺とはまったく違う。だから、女子に親切にしまくった挙句に勘違いさせて告白され、交際に発展するのだ。

海斗はまだおそらく本当の恋を知らない。告白されてとりあえず付き合ってみるのは、好きになれるかもしれないと思ったからだそうだ。

けれど俺の知る限り、一ヶ月もった相手はいない。
彼女から送られてくる他愛のないメッセージを無視し、責められ、別れるというパターンが多い。海斗は思いやりがあって優しいが、その優しさを誰にでも与えてしまうから、彼を好きな女子は気が気じゃないのだろう。
だから海斗を束縛して、束縛されることに海斗が疲れて、彼女も疲れて破局する。

海斗が連絡を無視するのだってわざとじゃないし、悪気がないのを俺は知っている。
うちはサッカー部がかなり強く全国大会出場も果たしている。ここ最近はようやく頭髪規制がなくなったものの、強豪校らしく練習量も試合も多い。もちろん部活中、試合中のスマホは禁止されており、帰ってからも疲れてそのまま眠ってしまうのだ。
海斗にメッセージを送ったって返ってこない。
だから俺は、海斗になにか用事があるときは直接部屋を訪ねることにしている。

「わかった。えっと、お前のこと好きとか、よくわかんねぇけど、わかった」
「あんま気にしなくていいよ。まだ付き合って一日だから、今までとなにかが変わるわけじゃないだろうし」
「幼馴染みってことは、俺のことよく知ってんだろ?」
「うん、少し前まで彼女がいて別れたことも知ってる。海斗の初体験がいつなのかも」