俺は安堵しながらベット脇に置いてある椅子に腰かけ、彼が目覚めるのを待った。
職場から駆けつけた海斗のお母さんは、入院準備のために一度帰宅した。
いつものごとく「空くん、海斗のこと見ていてくれる?」と頼まれ、俺はここにいる。
「ん……」
「海斗、起きた?」
海斗がうっすらと目を開けて、ぼんやりした顔のまま目だけをこちらに向けた。
「頭、いてぇ」
「頭打ったって聞いた。異常がなくてよかったよ。これ以上アホになったら困る」
俺は海斗が起きたことに安心して、いつも通り軽口を叩いた。
海斗は打った頭が痛むのか、眉間にしわを寄せたまま瞬きを二度、三度とする。
「えっと、お前だれ?」
「なに言ってんの? もしかして頭打ってまだ混乱してる? 自分が誰だかわかる?」
「俺……俺は……」
海斗はそう言うと、頭が激しく痛んだらしく目を瞑った。
うそだろう。これでは少女マンガの王道テンプレ、記憶喪失ではないか。ああいうのはだいたい付き合った恋人がヒロインを忘れてしまうものだ。
記憶がない彼氏につれなくされても負けじと頑張るヒロインを、彼氏がもう一度好きになるというもので、過去を思い出したあとはよりお互いの愛情が深まる。
それが少女マンガの王道テンプレ記憶喪失だ。
なんで少女マンガに詳しいかって? 好きだからだよ、文句あるか。
海斗を好きになってから俺は、少女マンガに始まりBL本まで買い漁った。
自分が海斗に向ける感情を恋だと思いたくなかったからだと思う。
だけど、キラキラしい少女マンガの男が言うセリフが海斗と被って、そのたびに胸を高鳴らせている俺がいた。
彼女がいるとわかっていても、肩を組まれれば嬉しいし、彼女より俺を優先してくれたらもっと嬉しい。そんなの恋しかないじゃないか。
王道テンプレ記憶喪失に海斗が罹患した可能性が浮上した瞬間、俺の頭の中にもう一つのテンプレが浮かんできた。
海斗はきっと俺との関係性を問うはずだ。そしてそのあと俺は。
「俺は、鈴木空。お前は鈴木海斗。ちなみに四歳の頃からの幼馴染みで、昨日から付き合ってる恋人だ」
そんなテンプレなセリフを吐いた。
「は?」
海斗は意味がわからないという顔をした。
職場から駆けつけた海斗のお母さんは、入院準備のために一度帰宅した。
いつものごとく「空くん、海斗のこと見ていてくれる?」と頼まれ、俺はここにいる。
「ん……」
「海斗、起きた?」
海斗がうっすらと目を開けて、ぼんやりした顔のまま目だけをこちらに向けた。
「頭、いてぇ」
「頭打ったって聞いた。異常がなくてよかったよ。これ以上アホになったら困る」
俺は海斗が起きたことに安心して、いつも通り軽口を叩いた。
海斗は打った頭が痛むのか、眉間にしわを寄せたまま瞬きを二度、三度とする。
「えっと、お前だれ?」
「なに言ってんの? もしかして頭打ってまだ混乱してる? 自分が誰だかわかる?」
「俺……俺は……」
海斗はそう言うと、頭が激しく痛んだらしく目を瞑った。
うそだろう。これでは少女マンガの王道テンプレ、記憶喪失ではないか。ああいうのはだいたい付き合った恋人がヒロインを忘れてしまうものだ。
記憶がない彼氏につれなくされても負けじと頑張るヒロインを、彼氏がもう一度好きになるというもので、過去を思い出したあとはよりお互いの愛情が深まる。
それが少女マンガの王道テンプレ記憶喪失だ。
なんで少女マンガに詳しいかって? 好きだからだよ、文句あるか。
海斗を好きになってから俺は、少女マンガに始まりBL本まで買い漁った。
自分が海斗に向ける感情を恋だと思いたくなかったからだと思う。
だけど、キラキラしい少女マンガの男が言うセリフが海斗と被って、そのたびに胸を高鳴らせている俺がいた。
彼女がいるとわかっていても、肩を組まれれば嬉しいし、彼女より俺を優先してくれたらもっと嬉しい。そんなの恋しかないじゃないか。
王道テンプレ記憶喪失に海斗が罹患した可能性が浮上した瞬間、俺の頭の中にもう一つのテンプレが浮かんできた。
海斗はきっと俺との関係性を問うはずだ。そしてそのあと俺は。
「俺は、鈴木空。お前は鈴木海斗。ちなみに四歳の頃からの幼馴染みで、昨日から付き合ってる恋人だ」
そんなテンプレなセリフを吐いた。
「は?」
海斗は意味がわからないという顔をした。