海斗の顔が真っ赤に染まる。ガタイのいい男が頬を染めるのを見て可愛いと思ってしまう俺は、どこまでもこの男に溺れているらしい。

「よくない」

喉仏が上下して、熱のこもった目がこちらを向いた。
通勤、通学で歩く人が徐々に増えてくる。
男同士で手を繋いでいたら目立つ。わかっていても名残惜しくて離せなかった。

海斗は俺の手を引き、自分の身体で俺を隠すように壁に手をつく。
周囲を伺い、誰もいないのを確認すると、顔が近づいてくる。目を瞑った瞬間、視界の端に金色がさらりと揺れた。目の前が陰り、唇に温度を感じる。

「行くか」
「うん」

俺たちは手を離して、駅までの道を歩いた。

「ところで、なんで記憶喪失なんてうそついたの?」
「決まってんだろ。頭打ったら、『お前だれ?』はテンプレじゃん」

そんな海斗の言葉に驚き、俺は腹を抱えて笑うしかなかった。