「女の話はどうでもいい。それより、お前が恋人なんてうそつくくせに全然俺のことなんて興味ないって顔するからすげえ腹立った。入院中に一度も連絡してこねぇし、これじゃあ前と変わらないだろ! しかもだ、せっかく退院したってのにデートの誘いすらねぇし、俺と一緒に帰るつもりもないときた! 昨日、お前が女に呼び出されてんの見てはっきりしたんだ」

それじゃあまるで、俺を好きだと言っているみたいだ。俺に執着している、そんな期待をしてしまう。
海斗が俺と一緒にいるのは、俺が海斗に興味なさそうに振る舞っているからじゃないのか。

「はっきり? 騙したから、怒ってんの?」
「そうじゃねぇよ。お前さ、俺がなんでお前にわざわざ女の話を聞かせてたか、全然わかってねぇだろ」
「そんなの、わかるわけない」

ただ彼女とデートした話を聞かせたかっただけじゃないのか。ベッドでどうしたなんて話を聞かせて、俺に参考にしろなんて言ってたじゃないか。

「お前が、俺の話を聞いて少しは嫉妬してくれるかと思ったんだよ。そもそも、女と付き合ったことなんて一度もない。女のダチはそれなりにいるけど」
「う、そ?」
「空が俺を恋人だって言うから、すげぇ嬉しかったのに……連絡一つ取らない恋人がいてたまるか!」
「まさか、それで昨日、黙って帰ったの?」
「お前が追いかけてくると思ったんだよ! 待てど待てど来ねぇし、どうなってんだお前の恋愛観!」
「普通だと、思う」
「好きな相手に女からのID渡すのは普通じゃねぇ!」

海斗の言葉が、都合のいいように聞こえてくる。それじゃあまるで。

「海斗、俺のこと好きなの?」
「食ってくれるのとか散々人を煽っといて、いまさらそれかよ」
「曲がったこと、嫌いじゃん。人のことを試すようなやり方とか」

そういうのは俺の専売特許だっただろう。
俺が指摘すると、海斗は悔しそうに髪をかき混ぜた。

「仕方ねぇだろ! 俺だってこんなに初めてで、どうしていいかわからなかったんだよ!」
「そんなに、俺が好きだった?」

海斗の手が伸ばされる。

「だから、こんなに必死になってる。お前のせいだ」

手を取られて、指が絡められた。
海斗の手は俺の手よりも大きくて冷たかった。俺の手はおかしな汗でぐっしょりと濡れている。重ねるとちょうどいい温度かもしれない。

「言っておくけど、俺、めちゃくちゃ重いから。お前となら毎日会いたいし、朝も昼も夜も声を聞きたい。なんならこうやっていつも手を繋ぎたい」
「メッセージには返信しないくせに?」
「返信したら、お前が家に来てくれなくなるだろ」

絡められた手がきゅと強く握られる。

「手を繋ぐだけでいいの?」