「えっと、お前だれ?」

親友が突然、記憶喪失になりました。
親友の名前は鈴木海斗《すずきかいと》。
俺──鈴木空《そら》とは、うちの親が人気エリアの分譲住宅を購入したときからのお隣さんで、幼稚園、小学校、中学校、そして現在は同じ高校に通っている。
おそらく郵便配達や宅配便の人をかなり混乱させているだろうが、同じ名字という偶然から始まり自然と家族同士で交流するようになった。

海斗は子どもの頃から活発で、スポーツ大好きなガキ大将。
金髪にピアスがトレードマーク。
中学からめきめきと身長が伸びて今や百八十近くある。

対して俺は、適当に周りに合わせるのが得意な地味メン。垂れ目がちの女顔も、ウエスト六十三センチというヒョロリとした体格もしょっちゅう女子に羨ましがられるものの、男としては自信をなくすよね。
取り柄と言えば成績くらい。一位なら自慢になるかもしれないが、学年で二十番という微妙なところにいる見た目通りの優等生だ。
幼馴染みでもなかったら、俺と海斗はおそらく友人にすらならなかっただろう。
それくらい俺たちは真逆のタイプだった。
けれど、なんだかんだ腐れ縁を続けていられるのは、俺の努力によってだと言える。

──なぁ、女ってなんであんなに毎日毎日連絡してくんだと思う?
──海斗に会いたいんじゃないの?
──毎日学校で会ってるだろ。なんで連絡してくれないのって言われても、放課後にデートもしてるんだから夜はいいだろって言ったらぶん殴られて別れた。
──言い方ってのがあると思うよ。本音を包み隠さずに言えばいいってもんじゃない。
──やっぱ彼女といるよりお前といる方が楽だわ。
──んなこと言ってるから、すぐ終わるんだよ。

海斗の何気ない言葉に俺がどれだけ浮かれていたかも知らずに、別れた直後に知り合った新しい彼女とのアレコレを教えてくれたひどい奴。
まぁ、その新しい彼女とも三日ももたずに別れたらしいけど。

保健医から呼び出されたのは、彼女と別れたという話を聞いた翌週のことだった。
遅刻ギリギリで学校に来た海斗が、学校の階段から落ちて病院に運ばれたのだ。
俺は海斗の通学カバンを預かり、学校帰りにそのまま病院へ寄った。

病室で眠る海斗は、頭に包帯を巻いているもののそこまでひどい怪我ではなさそうだ。