廊下には人っ子一人いなかった。そして、うずくまった僕はそのまま動けずにいた。 小さく、嗚咽が聞こえる。 その声は僕のものではない。扉の向こうだ。
「何で泣くのさ……」
唐突に鼻の奥がツンと痛くなった。ぽろぽろと、まぶたから涙が溢れる。板張りの床を濡らすことに気づいた僕は長い溜息をつく。悲しみと怒りと、罪悪感が頭を麻痺させるせいで立ち上がることができない。僕の持っていた友達意識なんて、マキにとっては、独り善がりの迷惑だったのだろうか。しばらくすると、扉の向こうで足音がした。そしてポーンとピアノの音色が始まった。僕の知らない曲のかるい音取り。もうマキがこちらに慰めに来るなんてことは無いのに、僕は立ち去ることもできない。その上不幸なことにも、体重をかけてしまった右脚に鈍く、強い痛みがズキズキと現れた。
――立てない。
もう片方の脚は正常なはずなのに、壁伝いでないと身を起こすことすらできない。ひどい痛みに歯を食いしばりながら、僕は立ち上がる。何故、そんな事をするの? 忘れちゃったの? という無邪気な疑問が、罪であったことをに気づいた僕は酷い顔をしていただろう。僕の知らない曲を、僕の知らないうちに知ったマキ。そんなマキの歌が細く聞こえる。歌声を背に部屋へと足を引きずり帰った僕は、ベッドに倒れ込んだ。
「何で泣くのさ……」
唐突に鼻の奥がツンと痛くなった。ぽろぽろと、まぶたから涙が溢れる。板張りの床を濡らすことに気づいた僕は長い溜息をつく。悲しみと怒りと、罪悪感が頭を麻痺させるせいで立ち上がることができない。僕の持っていた友達意識なんて、マキにとっては、独り善がりの迷惑だったのだろうか。しばらくすると、扉の向こうで足音がした。そしてポーンとピアノの音色が始まった。僕の知らない曲のかるい音取り。もうマキがこちらに慰めに来るなんてことは無いのに、僕は立ち去ることもできない。その上不幸なことにも、体重をかけてしまった右脚に鈍く、強い痛みがズキズキと現れた。
――立てない。
もう片方の脚は正常なはずなのに、壁伝いでないと身を起こすことすらできない。ひどい痛みに歯を食いしばりながら、僕は立ち上がる。何故、そんな事をするの? 忘れちゃったの? という無邪気な疑問が、罪であったことをに気づいた僕は酷い顔をしていただろう。僕の知らない曲を、僕の知らないうちに知ったマキ。そんなマキの歌が細く聞こえる。歌声を背に部屋へと足を引きずり帰った僕は、ベッドに倒れ込んだ。