彼女が昔付き合っていたという日本人の男の子は私たちと同じ大学の俳優課に所属していたものの、頑張りと無理がたたって志半ばに帰国したのだと聞いた。しかも、その決断について一言も相談がなかったまま。
「ま、今はどこにいるのか知ったことじゃないけど」
ケイティは清々したような笑顔で言う。私もつられて小さく笑った。
二人とも、またクッキーに手を伸ばす。ケイティはそれを口に運ぶ前に私に訊いた。
「日本に戻ったら、やりたいことある? それとも、会いたい人とか」
私はクッキーを一口かじって、考える時間を稼いだ。
「やりたいことは……もちろん、今までとは違うタイプの企画に関わってみたいけど」
ケイティは眉を寄せて聞いている。
「会いたい人ね……正直、家族ともあんまり上手くやってないし、友達も限られてるから。現実的な話をすると、仕事の関係者には挨拶して回らないといけないけど」
「あの同業の男性は?」
不意打ちのように訊かれて、私のマグカップを持つ手が固まった。
「……うん。そうね」
ケイティの表情は緩んでる。
私も小さく笑った。だって、これに関しては彼女に本当に助けてもらっている。
「それはそうでしょう。私だってここまで来れたってことは、見せたい。尊敬してるけど、やっぱり彼はライバルだもの」
からかわれる前に補足をすると、同意が返ってきた。
「それは正しい」
少し間があって、ケイティは自分のマグカップを低く空中に掲げた。
「いいじゃない。やってやりましょう。私たちだって」
そして腕を伸ばし、それを私のほうに近づける。
少し遅れてそれを理解した。私も、少しだけ紅茶が残ったマグカップを上げた。
居間に二人の笑い声が響く。
「Cheers!」
「ま、今はどこにいるのか知ったことじゃないけど」
ケイティは清々したような笑顔で言う。私もつられて小さく笑った。
二人とも、またクッキーに手を伸ばす。ケイティはそれを口に運ぶ前に私に訊いた。
「日本に戻ったら、やりたいことある? それとも、会いたい人とか」
私はクッキーを一口かじって、考える時間を稼いだ。
「やりたいことは……もちろん、今までとは違うタイプの企画に関わってみたいけど」
ケイティは眉を寄せて聞いている。
「会いたい人ね……正直、家族ともあんまり上手くやってないし、友達も限られてるから。現実的な話をすると、仕事の関係者には挨拶して回らないといけないけど」
「あの同業の男性は?」
不意打ちのように訊かれて、私のマグカップを持つ手が固まった。
「……うん。そうね」
ケイティの表情は緩んでる。
私も小さく笑った。だって、これに関しては彼女に本当に助けてもらっている。
「それはそうでしょう。私だってここまで来れたってことは、見せたい。尊敬してるけど、やっぱり彼はライバルだもの」
からかわれる前に補足をすると、同意が返ってきた。
「それは正しい」
少し間があって、ケイティは自分のマグカップを低く空中に掲げた。
「いいじゃない。やってやりましょう。私たちだって」
そして腕を伸ばし、それを私のほうに近づける。
少し遅れてそれを理解した。私も、少しだけ紅茶が残ったマグカップを上げた。
居間に二人の笑い声が響く。
「Cheers!」