「戻ったら、一年ぶりのホームね」
 ケイティが言う。
「そう……ね」
 思い返してみる。確かに、こっちに来てからの一年は日本への一時帰国どころかイギリス……否、ロンドンを出てすらいない。課程の休暇時期も映画や舞台を巡ったり参考になりそうな本や戯曲と向き合ってばかりで。
「舞子は日本のどの辺りの出身なの?」
 ふと、でも思えば、初めて、訊かれる。
「東京の西の地域。だから都心部じゃなくて、でも通勤はしようと思えばできるかなって感じで……」
 そこからさらに細かく訊かれて、スマホに地図や路線図を出しながら説明すると、ケイティは興味ありげにそれを見ていた。
「ケイティは?」
 私も尋ねる。
「私は元々にブリストルに住んでて大人になってからロンドンに引っ越してきたんだけど」
 ケイティはそこまで言って、少し考えこむ仕草をした。
「……私もまた顔出しに行こうかな。クリスマスは行ってなかったし」
「いいんじゃない?」
 私は明るく言ってみる。
 会いたがってる家族がいるならぜひ、と思う。自分の場合はそれがないから、なおさら。
 だけどケイティはそれには触れず、質問の回答を続けた。
「でも、どこの人かって訊かれると……お父さんがアイルランドの人だからルーツは一つより多いよね」
「へえ」
 相づちを打つと、ケイティはまた興味を含んだ目をした。 
「話し方とかでわからない?」
 きっと方言や訛りという意味。
 だけど、外国人の耳にそんな繊細な違いはわからない。
 正直にそう言って謝ると、ケイティは「そっか」と、何とも言えない表情になった。
「日本語にもやっぱり、アクセントとかってあるの?」
「もちろん」
 真似したりとかはできないけど、と断って、またスマホで地図を見せながら代表的な地域の方言について話しだす。すると、彼女はまた真剣な顔になった。
 その途中で一つの地方を上げると、ケイティは「あ」と声を上げた。
「そこ、あいつが地元だって言ってた。で、ハイスクールを出てから東京に行ったって」
 私はすぐに理解が追いつかず、少し考えてから言った。
「えっと……前に話した元カレのこと?」
「そう」
 ケイティはそう言うと前のめりの体制からまた椅子に背中をつけた。