「はい。ちゃんと好み通りにしてる」
 ケイティが私の前に置いたマグカップは満足そうに湯気を立てていた。
 こと、ともう一つ硬い音がして、彼女のマグカップもテーブルに置かれる。
 仮にも今は夏だし、さっきまで片付けをしてたせいで体はもっと暑いし、イギリスの住居に冷房はついてない。それでも、紅茶はいつだってホットなのだ。
 ほのかな香りに気分が癒される。ケイティのこだわりのリーフティーとこっちの硬水で淹れるこれも、もうあと何杯飲めるだろう。
「ありがとう」
 マグカップを引き寄せて中を覗くと、ほんのり白が混ざった茶色に出迎えられる。濃いめでミルクは少量という、私が好きだと思った加減だ。
 ちなみにケイティはもっと濃く、ミルクも多めに入れるのを好む。こうしてよく二人分を同時に淹れてくれるのに毎回味の調整までしていることに申し訳ないようなときめくような気持ちを覚える。
「やっと一休みってところね」
 ケイティも椅子に座り、背もたれに体を預ける。
「まあ、まだ終わってないけど」
 そう返して、一口紅茶をいただく。
 私たちが今いるのはソファと食卓用のテーブルと椅子が置かれた居間だ。このフラットは建物の一階(日本式に言うなら「二階」)に位置していて、居間の大きな窓からは住人が自由に使える庭が見える。芝生も木も爽やかな緑色をしている。
「まだ時間はあるし、大丈夫でしょ」
 ケイティはそう言って、二人の間に置かせた小皿に手を伸ばした。
 そこにあるのは、これも彼女お気に入りのサンドウィッチ型のクッキーだ。小型の長方形のクッキーでバニラ風味のクリームを挟んだ、紅茶にとても合うお菓子で……日本でも買えないか、今から気になる。
 私も一つ取ってかじると、ほんのりと甘い味が舌先から広がった。
 美味しい。