でもそれは慌てて打ち消して、必死に返答を考える。
「本当に大丈夫? 日本行ったことないんでしょ? 向こうの夏がどんなのかわかってる? 私と一緒じゃない日はどうするの? どこかでうっかり元カレと会っちゃう可能性だってあるじゃない」
「舞子、あなた自国の広さをだいぶ過小評価してると思う」
「事実は小説より奇なりって言うよね? あと広さを過小評価してるのはケイティも――」
「大丈夫。もしどこかで偶然会うという不幸に見舞われた時は、これまでの文句を全部突き付けるチャンスだから」
 そうやって言い合いをする私たちに、ふと第三者の声が割り込んだ。
 ――何だ、何だ? 随分賑やかだね、レイディたち
 二人、声がしたほうを見ると、一台の車が止まっていて、そこからフラットの玄関までの道を運転手と思しき男性が歩いていた。声の主は彼だろう。
「誰の予約?」
 ケイティが彼に訊くと、私の名前が返ってきた。
 するとケイティは満足気に笑って私を見た。
「どうする?」
 沈黙。少しの思考。
 私はすぐそうだ。
 でも、ここ一年とさっきまでの数分を思い返して、今の状況と実際決まっていることを整理して、自分の気持ちを整理してみて。
 なんだか色々吹っ切れた気がした。
 私は手荷物の鞄を持ち直して、正面を見た。気のせいか、さっきより風景の色が明るい。
 両脇のスーツケースを掴む。
「……楽しみましょう」
 そう言って、一歩進んでみる。
 すぐに、隣に軽やかなステップと嬉しそうな声が並んだ。
「一緒にね」
 タクシーに向かう私たちの頭上では、雲が引いていく薄青色の空とかすかな陽の光が広がっていた。