そうしてどれだけの時間が過ぎたか。太陽が一番高くなった気がした時、ふと鞄から振動を感じた。
 驚いて体を起こして中を探ると、スマホが受信で震えていた。
「もしもし?」
 出ると、通話の向こうには「前日になったので」という前置き付きで私の名前や行き先、荷物の有無などを尋ねる人がいた。
 予約をしたタクシーの会社からの確認電話だった。
「はい。それで合ってます。明日の午前九時、ヒースローのターミナル3まで、人数は、」
「二人」
 急に横から声がした。
「……え?」
 声がしたほうを見ると、ケイティが芝生から顔だけをこっちに向けていた。
「二人にして。私も一緒に行くから」
「……」
 理解が追いつかずただ瞬きをしていると、私の沈黙を不信がったオペレーターが返答を促す。
「……あ、えっと、やっぱり二人で。……今からでも……あ、じゃあそれで」
 通話を終えて、ケイティを見る。
「ちゃんと代金は半分出すから」
「……うん」
 見送りに来てくれるということ?
 こんな直前に言わなくても、という違和感を抱きだした瞬間、スマホの表示の時刻に頭が反応した。
「あ、チェックインしないと!」
 もうオンラインのそれがオープンしてから三十分がたっている。私は慌ててロックを解除して予約控えを出し、手続きをし始めた。
 数分後、起こした体の隣に人の気配を感じた。
「舞子は、窓派? 通路派?」
 ケイティは興味ありげに訊く。
「通路」
 そう答えて、まだ両方とも空いている窓際の二列席の片方を確保する。そのまま搭乗券の発行まで進めて、保存。明日は念のため、カウンターでも印刷をしてもらう。
 全部終えて、顔を上げる。これで、一安心。
「だと思った」
 笑顔でそう言ったケイティも座った体勢になって、いつの間にかスマホを操作していた。