二百年以上前からその存在が記録されているハムステッドヒースは広く緑がいっぱいの空間で、木々、草原、池、それとちょっとした遊び場、遊泳場や運動スペースが集まっている。
近くのバス停で降りてその自然の中を歩きだすと、ロンドンの中心部から数キロしか離れてないと思えないほど落ち着いていて静かであることを実感する。ここはロンドンの中でも特に標高が高い場所で、地上の都市の喧騒が届かないという理由もあるかもしれない。
「大丈夫? 疲れた?」
ケイティが冗談めいて尋ねる。
今私たちが行く未塗装の道の先は、丘の頂上だ。
「そこまで年取ってない!」
そう返して髪を結び直し、もう一歩踏ん張る。明日の飛行に備えて、一番履き心地がいい運動靴を残しておいて正解だった。
二人分の笑い声が自然の風に散る。
軽口を叩き合いながら歩いていると、思ったよりも早く、開けた緑の一面に踏み出せた。
「着いたー!」
子供みたいな気分で喜びを表現して、今度は広く使えるスペースを探して歩く。足元、黄緑色の芝生はくしゃくしゃと音が鳴りそうなくらい元気そうに見えた。
もう八月に入ったのもあって、真上から照らす太陽は二週間前と比べて眩しく、暑い。でも辺りを吹く風には都心部の観光地やフラットの庭では感じられなかった清涼感があって、本当に癒しの空間なんだとわかる。
丘の上も広くて人はそんなに多くなく、座れそうな……というより、寝転がれそうな、空きスペースはすぐ見つかった。木や建物にも遮られず、見える風景も、空も、広い。
だけど、私たちはその場所と決めても、腰を下ろそうとはしなかった。
「……?」
どちらが先に、とか、そんなことにこだわっていない。だけど、ケイティが立ったまま宙を眺めているものだから。
「どうしたの?」
「見て」