ぶつからないように食器を移動させて、私もゆっくりと背中を地面に預けた。
 さっきよりさらに色が濃くなった空はやっぱり、とても広い。
 勉強し直しがひと段落ついて、日本での厳しい現実と再び向き合うことを意識して、競争の絶えない仕事、私一人でやっていく私生活、そこに付随する人間関係で不安を感じていた。今だってそれは感じている。
 だけど世界はそれだけじゃない。
 見える空、聞こえる風や木の音。感じる、ラグの下の芝生の新鮮さ。それを一緒に体感する、ここ一年を共闘してきた友達。
 ここまであって、この先もう二度とないかもしれない、とても大切な体験、時間、人。
 それを心身の全てで体感する。
「……はあ」
 安堵したため息がこぼれる。
「舞子」
 さっきより近く、空に向かって呟くようにケイティの呼びかけがあった。
「何?」
「あなた、また真面目になってるでしょ」
 まるで思考を読まれたような言葉に、心臓が騒いだ。
 もし今顔を横に向けたら、彼女と目が合うだろうか。それとも、まだ二人して空を見つめている?
「……そう思う?」
「そんな気がした。だから、自分に厳しくなりすぎないようにね」
「それはお互い、同じじゃない?」
「そう思う?」
 私たちは当然のように、空の方向を見て話していた。それで心地よかった。
 しばらく二人、自然の音だけに囲まれていた。