皿洗いが終わり、大量のフルーツを切り、生クリームを泡立て、カスタードも作って冷やすために置き、カクテル用の材料を用意し終わっても、スポンジケーキはまだほのかに熱を持っていた。
 私たちは仕方なく、一休みを決めた。
「私は部屋にいるから、何かあれば呼んで」
 居間でのんびりするケイティに声をかけておく。
 今日は、昼食までは各自で軽く(「軽く」が大事ね、とお互い確認済み)済ます代わりに、完成予定のトライフルは一緒に外で食べることになっている。フラット共同の庭にピクニックシート代わりにラグを敷いてという、ちょっとおかしな光景になりそうだけど、即興なのだから仕方ない。
 共同スペースから自分の寝室に向かう時はケイティの部屋の前を通る。
 見慣れた、もうすぐ見なくなる景色。だけど、今日廊下から見えるそれはいつもとどこかが違っていた。
 部屋のドアは半分ほど開いていて、中の様子が窺える。
 その隙間からそっと私に姿を見せていたのは、ケイティのスーツケースだった。蓋は開いていて、中には何着かの衣類が無造作に丸めて入れられていた。
 久しぶりに地元に顔を出そうか、と彼女が言っていたことを思い出した。
 自分だってもうすぐいなくなるくせに、その景色に寂しさを感じるなんて、随分勝手だと思った。