ウォータールー橋を渡ってテムズ川の北側に向かうと、少し商業的な賑やかさを意識する大通り・ストランドが見えてくる。
 さっきまで歩いていたサウスバンクの歩道と平行に東西に伸びるここは、あの文化街と比べてだいぶ忙しない印象を受ける。だけど、道路の両脇を飾る建築は伝統の色が濃く、その道路を行く車に多くの黒いタクシーや二階建ての赤いバスが混ざって走る風景は、見る人によっては何よりロンドンらしいと表現されるかもしれない。
 ここから東へ行けばいずれ金融街「シティ」に足を踏み入れ、西へ行けば劇場、食とショッピングの「ウェストエンド」が近づく。
「またトラファルガー・スクエアだけど、いい?」
 ケイティはごく自然に西へ曲がる。
「うん」
 時間は昼を少し過ぎたところで、きっとランチもその時の気分次第で軽く、でも楽しく、行くだろう。
 たわいない話をしながら歩道を進んでいると、やがて道と空が開けてくる。
 曲線のある交差点を見下ろすように、堂々と立つナショナルギャラリー、黒いライオンの像、噴水、空を突き刺すような高さのネルソン記念柱に、辺りに集まった大勢の観光客と常駐する鳩の群れたち。
 青空の下のトラファルガー広場は明るく、夏の活気に溢れていた。
「考えてみたら、私がちゃんと来るのってクリスマスの時以来かも」
 記憶を巻き戻して呟いた。
「その時はこういう風には過ごしてないでしょ」
 その返事に振り返る。