わかる気がした。
 だってロンドンも、きっと世界の他の大都市と違わず、細かいエリアごとに多様な特色を見せる街だ。だけどそれは時に、その色に遭わない者を入ってこさせなくする壁にもなりえる。
「ここに来れば、カルチャーに貴賤はないということをいつだって思い出せる。……ほら」
 そう言ってケイティが示したのは、いつの間にか私たちの隣に姿を見せていた、あるコンクリートの空洞だった。
 奥行きとかなり深さのある広いスペースは平面、坂、階段や柱でできている。壁も地面も灰色のコンクリートなのだけど、至るところをカラフルな落書きで覆われている。今はそれを背景に五、六人くらいの若い男の子がスケートボードを豪快に走らせていて、観衆を守る金属の柵のこっち側では数組の観光客がその光景に見入っていた。
 アンダークロフトという通称で知られるこの空間は、もう五十年近く昔からこうして、スケートボードやBMX、それからストリートアートの遊び場として発展してきたのだと聞く。元々はそういう用途で作られた場所じゃなかったのに、人の手によって成長して。
 そこを見るケイティもどこか誇らしげに見える。
「これの真上にある建物では演説とかクラシック音楽のコンサートをやってるのに、同時にこうやってストリートスポーツやグラフィティが普通に活発に動いてるでしょ。……そういうとこ」
 私たちも柵まで行ってもたれかかり、しばらく楽しそうな彼らを眺めていた。
 でも数分がたった頃、ケイティがふとこぼした。
「やっぱり、男の子ばかりよね」
 少し硬い声で言う。
「でも、もしあの中に混ざっていこうと思う女の子がいたら、私は絶対後押ししたい」