その一言で決まって買ったのは王道のソフトクリームだった。私たちも木陰で立ち止まって、食べる。
 私はすぐ、ソフトクリームに刺してあるチョコレートスティックを取ってかじった。ほろほろと崩れるチョコレートの欠片に冷たいソフトクリームが絡みつき、口の中で混ざり合う。
 食べるのは初めてじゃないけど、何度食べても不思議な舌触りだと思う。紙みたいに薄いチョコレートをくしゃくしゃと寄せて棒状にしたような見た目のこれは、こういうアイスクリームのキッチンカーで買えるソフトクリームにおまけのように刺さされてくる。ソフトクリーム自体はよくあるミルク味だけど、こんな仕様で食べれるのはイギリスだけだと、初めて一緒に食べた時のケイティは自慢げに話していた。
 これも一つのご土地グルメか、と思った。
 やがて、コーンの最後の一欠片も口内に消える。
「……日本だと、その町やその地域限定のソフトクリームを観光地で売ってたりする」
 そう呟くと、ケイティは興味ありげに私を見た。
「へえ。たとえばどんなの?」
「えっと……私が見たことあるものだと、金箔で包んであるのとか、わさび味とか?」
「えぇ?」
 仰天した声が上がる。
「それって美味しいの?」
「……さあね」
 ここで断言できない私は何か日本を案内する人として欠けているだろうか。
「まあでも、そんなの自分で確かめればいいよね」
 ケイティはいつの間にかスマホを出して文字を打っていた。
「どこに行けば食べれるか、あとで教えて」
「え? ……うん」
 流れでそう返事したけど、彼女は本気でそのつもりなのだろうか。
 該当のご当地は金沢、伊豆や長野のはずだ。さすがのケイティも距離感を知ったら意思は変わるんじゃないかと思う。
 さわさわと、風が葉っぱを揺らす。さっきより、体もだいぶ涼しい。
「よし、じゃあ行く?」
「うん」
 そう言って歩みを再開させると、右にテムズ川、左に店や文化施設の並ぶ風景が流れていく。
 知ってるような知らないようなシーンに私は「ケイティ」と、尋ねていた。
「何?」
「私がこっちに来たばかりの頃も、サウスバンクに連れてきたよね」
 昨日見せてもらったあのリストから私がここを一つの行き先として選んだ理由にも、そういう思い出が絡んでいるというのがある。
「ここ、好きな場所なの?」
「うん」
 あっさりな、でも自信たっぷりな、返事だった。
「どういうところが?」
 そう尋ねると、ケイティは大きな動きで私たちの近くを見回した。
「今はちょっと高級化やメインストリーム化が進んでしまってるけど、ここは昔から上流っぽいものと大衆向けのものと、両方を同時に見て感じられる場所だから。そういう寛容さが好き」
「ああ。……なるほどね」