タイムトリッパーズ〜いつの時代も必ず君に逢いにいく〜 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜






翌朝、数日ぶりに日が昇ったのを確認し、奴国の働き人達は外の世界に出てきた。

数日間で農作物を収穫し避難させ、人々は頑丈な屋敷の中に避難していた。
しかし野分の影響を完全に防ぐ事は出来ず、日が昇るとその被害状況が明らかになった。

ムラの奥に位置する山が土砂崩れを起こし、いくつかの住居や穀物倉庫が巻き込まれた。幸いにも死傷者は出なかったという事だが、とある民は住む家を失ったし、折角収穫した米の一部が無駄になった。

また、ムラを囲っている柵の一部が崩壊し、外からムラの様子が丸見えとなってしまっている。生活に影響はないが、このまま放置をすれば他国の侵略の危機に晒される可能性がある。隣国はどれも連合国であり襲撃されるような関係には無いものの、リスクが全く無いとも言い切れない。

早速働く事ができる男達は駆り出され、住居や柵の修復に取り掛かった。
収監中である京平と太市、その他の囚人達も人員に加わった。この働きにより今後の懲役年数を引き下げ、または取り消しとするという新女王・葉李菜の達しにより、囚人達は勢力的に動き回った。

女達は、本来米の収穫の時期に行われる収穫の準備を始めた。
刈り取ったまま倉庫に保管されていた稲穂をまとめて縛り、一週間程で稲架掛けという逆さに吊るして乾燥させる工程を行う。
その後縦杵と木臼を用いて脱穀し、籾を分離させる。籾殻を取り除く籾摺りの作業で玄米となったものを、精米する。精米は "米を搗く” とも呼ばれ、こうしてようやく炊く前の白米の状態になる。

ムラの人々が食べていける量の米を扱う為、一つ一つの作業に時間と労力を要する。
伊代と歌織も、この作業に参加した。
日頃する事のない重労働を何日間も行い、二人は草臥れた。
途中から男性陣も力仕事に助力し、太市や京平も加わった。

最後の工程である精米を行い、糠や胚芽の中から出てきた米粒をかき集めたが、手のひらに収まる程度の量しか獲れない。

「たったこれだけ?」
と歌織は不満を露わにする。
「あんなにたくさんの稲を収穫したのに、これだけしかお米が獲れないなんて。もっとたくさんやらなきゃ、今日明日で食べ切っちゃうよ」
「全部を籾摺りするんじゃないよ。来年の種蒔に使う種籾を取っておかないといけないからね」
と、籾摺りのリーダー的な女性に注意を受ける。
すでに歌織達の顔は広く知られており、異国人等と邪魔者扱いするムラ人はいない。

歌織は日頃一人暮らしをしているので、米の炊き方くらいは心得ているつもりだ。
しかし生産者の視点からすれば、茶碗一杯の白米を育て精米するまでの労力は甚大だ。それも現代社会の機械や知識を用いているからまだ良いものの、この時代の人たちには稲刈機も稲を運ぶトラックも、炊飯器すら持ち合わせていない。

「昔の人たちって、こんなに苦労してご飯を食べてたんだ。もし嵐に遭っていたら、このお米も手に入らなかったと思うと、現代人の私たちは幸せだね」
と歌織は白米を見て呟く。

「それは少し違うだろう」
と、歌織の独り言を耳にした京平が口を挟む。
「え、何が違うって?」
「現代人皆が幸せなんじゃない。たしかに先人達の苦労により俺達の生活水準は良くなったかもしれないけれど、それによって別の苦労を俺たちは経験しているんだ。過去の先人達が想像もつかないような不幸を、俺達は目の当たりにしているんだ。そんな何千年先の不幸を知らずに生きている彼らは、逆に幸せ者だと言えるかもな」
「・・・・それって、例えばどんな不幸?」
「そんな事、自分で考えろよ」

京平はぶっきら棒に言い放って、歌織の元を去り別の作業へ向かう。
歌織は一人悶々としながら、次々に運ばれてくる米を搗いていた。