タイムトリッパーズ〜いつの時代も必ず君に逢いにいく〜 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




隙間風の甲高い音で、駕籠彦は目を覚ました。

王の床間で眠っていたらしいが、ここまで運び込まれた記憶がない。
戸口が僅かに開いており、そこから冷たい風が吹き込んでいる。耳を澄ませばポツポツと降り始めの雨音を感じ、その悪天候の中で人々の掛け声が聞こえる。何かの作業をしているらしい。

長い長い記憶の中を旅していたような気がした。
過去の忌々しい事件から、これまで冷酷で無慈悲の国王を務めてきた。己の心の奥にある温かい感情に蓋をして、あたかも元から存在していないように思い込ませた。臣下やクニの民、唯一の肉親である妹をも恐怖に陥れて、彼らの怯える顔を見ないようにしてきた。

胸の内に長い間かかっていた黒い霧が、強い衝撃を受けたことで晴れた心地になった。
そうか、雷に撃たれたのか、と駕籠彦は思い出した。

この時代では、天災を始めとする人間に起こせないような現象は全て神からの啓示とされている。
天照神々が王の所業に憤り、このような天変地異を引き起こしたのだろう、と。
今まで不信感を持っていた駕籠彦は久方ぶりに、その考えがすっと心に浸透した。

「僕は・・・・天罰を受けたのだろうか」

「そりゃあ、其方の行いは神々の怒りを買っただろうね」

突然聞こえた声に、駕籠彦は飛び起きて床間内を見渡す。
一人きりだと思っていたが、駕籠彦の枕元の後ろ奥に老婆が座っている。

「なんだ、婆さんか、驚かせるでない。それよりも無断で入って来るなと伝えたはずだな?」
「よいじゃろう?儂はとっくに此世の者ではない、すぐにでもお迎えが来る身だから、王の罰なんて痛くも痒くもないわい」
「相変わらず肝が据わった婆さんだ」

駕籠彦と老婆は旧知の仲だった。駕籠彦や葉李菜の幼少期に老婆は王子と王女の教育係を任されていた事もあり、第二の母と言っても過言ではない。
誰もが恐れる王でありながらここまで砕けて物を言う事が出来るのは、このクニでは老婆だけなのだ。
その老婆ですら長い間、王と面会する事を固く禁じられていた訳だが。

お互い無言で許し合うかのように、距離を縮め顔を見合わせる。駕籠彦の顔には冷酷な王の姿は無く、遠い昔に失ったはずの朗らかな少年の顔が垣間見える。
老婆はその少年をはっきりと見つけ、安堵の表情を浮かべると共に、口を開く。



「我らが王よ・・・・ここらで幕引きと致しませぬか」

駕籠彦は何を言われたのか理解できず、一間置いた後に遅れて目を大きく見開く。

「・・・・何を申しておるのか、わかっているのか?」