タイムトリッパーズ〜いつの時代も必ず君に逢いにいく〜 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




翌日から、毒入り汁が出る食事の席には姿を現さず、床の間に籠るようになった。まるで自分を頑丈なシェルターの中に収めて護るように、一日の多くをそこで過ごすようになった。

大人達もその姿に根をあげたのか、徐々に毒入り汁は食卓に出されなくなった。しかし駕籠彦(カゴヒコ)は食事に対して疑心暗鬼になり、身の回りの世話をする侍従を減らしたり、時には暴力を振るうようになった。

そうした日々に追い打ちをかけるように、さらに重大な事件が起きた。
兵士を束ねる立場にいる兵長が、謀反を企てているという話を耳にしたのだ。
その権力を使って兵士達を統率し、王の命を狙っている・・・・という噂だった。

あくまでも噂に過ぎず、日頃兵長と接する機会のある阿湯太那(アユタナ)はそのような予兆を感じ取らない程誠実な姿を目にしていた。

報告を受けた駕籠彦は、すぐに兵長を詮議にかけた。
噂が真実であるかどうかの確認と称して兵長を呼び出し、あらゆる疑惑を並べ立て問い正す。
兵長はもちろん噂を否定し、側近や属する兵士達も偽りである事を主張した。
そもそも証拠も何もない為ここまで大事にして調べ上げる規模の詮議ではないはずだった。

兵長は無実として判断される事を当然のように思っており、詮議の始終ずっと穏やかな笑みを絶やさなかった。
しかしその姿が、却って駕籠彦を怪しませる要因となる。
日を重ねる毎に駕籠彦の言葉には熱が籠り、威圧的で攻撃的な言動をするようになった。
この事について自身は、『相手を責め立てて隠し事や虚偽の発言をさせない為の策だ』と阿湯太那に話したが、とてもそうは思えなかった。

そして遂に詮議の結果、詮議に携わる大人達の満場一致により兵長は無罪となった。
大きな詮議が一つ幕を閉じた事で事態は収束すると
思われていたが、駕籠彦はそう思っていなかった。

「皆、誰も王を信じようとしない。王の意見に賛同する者もいない。何十人といる大人達、全てが王と敵対する思想を持っているのだ。僕は・・・・ “()”は、信頼を回復せねばならない」
「誰も賛同していない訳ではございませぬ。阿湯太那はいつも、王の御心のままにございます」
「其方では足りぬ。たかが団長ごときでは、詮議に参列する事も出来ぬ。奴国の民が奴国王に従わぬとは、何たる事か。王の存在価値を無視するような、無礼千万たる行いを認める事が出来る者が果たしてここにいようか。今こそ民衆に思想を改めさせなければならない」
「それは・・・・如何様にして?」

翌日、兵長が反逆罪により投獄される。
前日迄行われていた詮議を見事に無視をするかのように、新たな不義の罪を並べ立てられ詮議は執り行われた。
この詮議はこれまでの大広間での詮議とは異なっており、主祭殿の裏の人通りの制限された外庭にて、数名程度の聴取人と厳しい暴力を与えながら取り調べられた。
異例の取調べを行ったのは、阿湯太那率いる兵士第一団に属する者達だった。

駕籠彦の独断の下進められ、判決は駕籠彦の独断で下された。
兵長は僅か数日で処刑台送りとなり、その家族も後に続いた。

この騒動を知り異議を唱えた兵士達も一人残らず、兵長と同じ道を辿る事になる。
その内に異議を申し立てる者はいなくなり、ムラ長を始めとした大人達は駕籠彦の顔色を伺い首を縦に振るだけになった。
空席となった兵長の座は、その忠誠心を讃えられ阿湯太那に与えられる。

民からの信頼を得る為に生きていたはずの駕籠彦は、民への不信によって豹変し、人々から恐れられる奴国(ナコク)王となった。