「恐れながら、王様の命令はまさしく愚行にございます」
「・・・・なんじゃと?」
「言葉を濁すなと仰っしゃったので、事実を包み隠さず言いました。嵐が来ると、民衆の生活が危機に直面していると、ここまで強く言っているのにも関わらず王様の私欲で戯れに人を殺すなんて、人の上に立つ人間のする事じゃないです」
「貴様、誰に向かってそのような口を利いておる?」
「私が言うべきでは無い事はわかっています。私も始めは、捕えられた仲間を救う為だけに王様にお願いしました。でもそれは間違っていると気付かされました。恐るべきはもっと広くて多い、民衆の生活が脅かされることです。他所者だった私達に食事をお与えくださり、寝る場所や着る物を提供してくださった皆様の恩を見て見ぬふりなんて出来ません。私は盲目だったのです、王様と同じように」
王の憤慨する様を見て、周りに控える老齢のムラ長や多くの臣下は怯え震える。
彼らは王の命令がどこへ飛ぶのかと予測し、その為の準備をする事しか出来ない。
伊代の訴えを民の為だと聞き入れて吟味するという発想に至る事は微塵もないのだ。
しかし気まぐれ王に日頃から惑わされてきた民衆は皆、伊代の言葉に耳を傾ける。
伊代の言葉こそ大衆の意見の反映であり、伊代が民衆の味方となって政を変革する事を望んでいるのだ。
「まだ私の言っている事がわかりませんか?このままではこのクニの人々も、王様も破滅してしまいます。一刻も早く、人々に命令を出してください!」
「命令?・・・・ああ、出してやるとも。この者を即刻打首にせよ!王への不敬叛逆の罪である。執行人よ、早く処刑台へ来い!」
王の怒りは頂点に達し、青銅の剣を持った処刑執行人と共に処刑台へ上る。
一部始終を片隅から見つめていた歌織達は、縄に繋がれたまま固唾を呑んで見守っている。
歌織は今にも伊代の元へ駆け出していきそうだが、足枷と手錠がそれを阻む。
綺那李は今までの威勢を失くし、王の激昂と打首の執行に怯え、目に涙を溜めている。
語る事は一丁前でもやはり中身は十歳の女子であり、現実に直面した時の恐ろしさは想像を絶するものだったのだろう。
太市は横にいる京平の様子を気にかけていた。
処刑台を目にしてからというもの、京平の様子がどこかおかしい。
額に汗をかき、顔色は病人のように青白く、呼吸も短くて荒い。
何かに怯え、過去の恐怖を呼び起こしているようだった。
「京平、大丈夫か?」
太市が呼びかけるも、京平の耳には届いていない。
ずっと処刑台から目を離さず、まるで視界を狭く制限されているようである。
四者四様の姿をじっと窺っていた阿湯太那は、処刑台での混乱に乗じて密かに動き出す。
控えていた九真由に命じ、囚人同士を繋いでいた縄を解き始める。
そして手錠足枷を外し、その場にいた四人は突如解放される。
「今が機だ。混乱に乗じてお前達を逃す。このままここにいては、お前達も処刑の巻き添えを喰らうだろう。密かに解放してやれと、姫巫女と伊代殿のお計らいだ」
「伊代が、俺たちに逃げろって言ったのか?」
太市は突然の事に戸惑いを隠せない。
京平の呼吸は乱れ、足枷を解かれたところでその場にしゃがみ込んでしまう。
太市が様子を伺う為に近寄った時、背後で誰かが駆け出す音が聞こえた。
歌織が地面を蹴り、走り去っていく足音だ。
阿湯太那の言葉に従って逃げるのかと思いきや、歌織は迷わず処刑台へ向かう。親友を助ける為だ。
もはや歌織の耳鳴りは増大し、理性や恐れをも奪ってしまったのか。

