タイムトリッパーズ〜いつの時代も必ず君に逢いにいく〜 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜






東の方向から、何かが来る。

そう知らせを受けた王が目を向けると、そこにいるのは二人の巫女ーーー伊代と葉李菜(ハリナ)である。
風を受けて裾がはためく凛としたその姿は、神聖なる印象を受ける。
誰もが彼女達を神々の遣いだと信じた。
二人の姿を見た民衆の中には、地面にひれ伏す者も少なくない。
無論、初めて会ったはずの邪馬台国(ヤマタイコク)の使者達も同様に感じ、言葉を失っている。

二人の巫女は小高くなっている処刑台の上に立ち、周りに詰めかけている民を見渡す。
そして伊代は王座に踏ん反り返る者と臣下達を直視し、まるで狙いを定めるかのように真っ直ぐ見つめる。

「これより神のお言葉を伝える。皆の者、静まれ!」

葉李菜の言葉を聞いた民衆は、誰もが地面にひれ伏し神の言葉を聞こうと願う。
臣下達も勿論同様で、ひれ伏さないのは王のみであった。

これが本来あるべき姿である。
神の恩恵を受けて暮らす民は皆神の下に平等であり、たとえ一国の王であろうと権力を握る者が神の啓示に抗ったり、無碍(むげ)にする事は許されない。
首を垂れない王は、この二人の巫女を神の遣いだと信じていなかった。
だからこのように無礼な行いが出来るのか、そう葉李菜は受け取った。

伊代は怯まず、もう一度民衆を見渡して予言を伝える。

「今、我らは自然の脅威の前にいる。強く冷たい風、日の光を隠す厚い雲、これらは、野分(のわき)の襲来によるものである。野分はこれまでに訪れたことのない程強大であり、いずれこのクニを呑み込む。家は倒壊し吹き飛ばされ、川は濁流となって襲いかかる。そして一年かけて育てた米や畑の作物はすべて無に帰してしまう。例年より早い時期とは聞いているが、野分の本格的な到来までに全ての作物を刈り取り、頑丈な倉庫へ納めよ。家々も対策を行い、守備を固めるべし。一刻を争う事である故、全ての囚人の打首等する暇は無い」

「おのれ貴様、まだそのような戯けを抜かしておるのか!!」

民衆が耳を澄まし静寂に包まれる広場に、怒りの一声が上がる。
民衆が一斉に声のする方向へ顔を向けると、そこには王がいた。

「神の啓示なんぞ偽りじゃ!仲間を助ける為だけに申しておる事で、野分は大嘘。巫女の名を語り神のお告げ等と民衆を騙すとは、叛逆である!」
「野分は来ます。この天気を見れば一目瞭然でしょう?今は強風で済んでいますが、やがて暴風に変わり、雨雲を運び嵐になります」
「北の空に雲の切れ目があるではないか。日の光がまだ差し込んでいる。天気が荒れるはずはない」
「雲は西から東へ動きます。それが自然の道理です」
「余は嘘を吐いていると申すか?現に姫巫女は昨日の占いでは何も無かったと言うておったではないか」

伊代の後ろに控えていた葉李菜は、王の前に進み出て、床にひれ伏す。

「確かに私は昨日、嵐が来るという予言は占いには無かったと申し上げました。しかし実のところ、何か不吉な予兆がある事には気づいておりました」
「気づいていながら余に進言しなかった、隠蔽を図ったと申すのか?」
「隠蔽などとは・・・・あまりにも小さな兆しだった為、お伝えする事でご心痛の種を増やすべきではないと考えたのです。ですが本日、日の出の刻に祈祷を行い、確かな兆しである事だと明らかになりました。それは祈祷を目撃した伊代殿、そして兵長が証人でございます」
「ほう。では其方も余の命令を撤回すべきと?この処刑の儀は愚行であると言うのだな?」
「そのような訳では・・・・」
「言い訳は聞きとうない!言葉を濁らせるくらいなら話すな!余の時間を無駄にしおって」

葉李菜にはまだ、王への言葉選びに迷いがあった。
それは心の迷いであり、兄に対する恐怖が残っている事に由来するものである。王の命令に対して意見を述べれば、例えそれが否定であろうと無かろうと手を上げられた記憶があるからだ。
今まで恐れを抱いてきたものを、今日から急に克服する事は容易では無い。

しかし伊代の心は決まっていた。
暴言を吐かれようとも力でねじ伏せられようとも、何としても友を死なせてはならない、そして民衆を救いたいという志が、伊代の心を強靭にさせる。
葉李菜の迷いを見極め、このまま王に押されてはならないと攻撃を展開する。