タイムトリッパーズ〜いつの時代も必ず君に逢いにいく〜 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜






桜の花が散り、徐々に青葉が芽吹き始める春。
それは大学に入学してから初めて講義を受ける日だった。

伊代は内気な性格と人見知りから、同じ大学内で友人を作る事に苦戦していた。
高校時代のように集団行動を求められたり同級というシステムが無くなった事で、友人がいないという事態にそこまで焦点を向けられる事は無くなったが、だからこそ友人を作るチャンスが少なくなり、他人に声をかける勇気も失いかけていた。

伊代は文学部に進学し、日本史を専攻する事に決めていた。
一学年度は学部や専攻に関係なく幅広い講義を受ける事が求められていたが、それでも日本史を愛して止まない伊代は、日本史研究の教授から受ける講義を迷わずに受講した。
第一回目の講義に参加してみれば、他学部生や専攻外の学生も多く、伊代ほど率先して一列目の席に座る者はいなかった。
ほとんどの学生は教室の後部に集中して座り、教授からの注目を浴びる事を嫌ったのだ。

そのような中で、伊代と同じく一列目の席に座る学生がいた。

「隣、いいですか?」

とある女子学生が、伊代に声をかけた。
恐らく学内で初めて伊代に声をかけた学生である。
隣の席は空くだろうと思い荷物で塞いでいた伊代は、予想外の事に驚き、届いているかどうかもわからないようなか細い声で『どうぞ』と言って荷物を除ける。

その女子学生は茶髪に赤のメッシュを入れており、柄物のブラウスを着ていた事からかなり浮いていた。
講義中にペアを組んで話し合いをする事になり、そこで名前を “蜂谷 歌織” というのだと知った。
奇抜な見た目からは想像がつかない程、伊代を気遣い話を合わせてくれている事がわかった。

「一年のうちに他学部の講義を受けるのが必須でさ、仕方なく日本史を取ってみたんだけど、高校でも真面目に授業受けてなかったし、正直全然わかんないんだよね。櫻井さんは日本史わかる?」
「・・・・うん。日本史専攻なんだ」
「マジで?じゃあ教授の話も余裕でわかる?」
「う、うん、大抵は」
「ラッキー!講義でわからないところ教えてもらおうかな」
「私でよければ。・・・・あの、何で私に話しかけてくれたの?」
「え、『何で』って?話しかけちゃいけなかった?」
「いや、そういうんじゃないけど・・・・私、人見知りだし内気でつまらないから、あんまり話しかけられる事がなくて」
「まぁ、そんな感じはしたけど・・・・それを言うなら、私だって話しかけられる事は少ないよ。見た目も言葉も強いからさ。でも櫻井さんは、すごい話しかけて欲しそうな顔をしてたよ」
「え、そうなの・・・・?」
「わざわざ教授の真ん前の席に座って、教授の注目を浴びたそうだった。それに周りの席をキョロキョロ見回してすごい気にしてたから、そうなのかなって」
「や、やだ。恥ずかしい・・・・」
「だからこそ話しかけやすかったんだよ。それに一目見て信頼できると思った。内気で人見知りでも、私の為に頑張って話してくれてるでしょ?裏表がある連中よりも言葉に純粋さが宿るんだよ。もし櫻井さんが私みたいなのと一緒に居づらいって思わなければ、これからは隣の席に座って課題を手伝って欲しいな」

歌織の気遣いの言葉から、彼女が言うような気の強さは感じられなかった。歌織の気の強さが厄介だと思い始めるのは少し先の話だが、伊代は大学に来て初めて心の安らぎを覚えた。

それからは課題の他に趣味や互いの話もするようになり、講義の時間以外も共にいる時間が増えていった。
そして互いを名前で呼ぶようになるのに、時間はかからなかった。

歌織のお陰で大学にいた四年間を充実して生活する事が出来た。今まで独りだった息苦しさと全く無縁になった。この恩は、ずっと忘れない。これからも疎遠にならず、親友でいたい。伊代はいつもそう心中で語っていた。

かつての記憶を、遥か遠い弥生時代の地で伊代は和やかに思い返した。