タイムトリッパーズ〜いつの時代も必ず君に逢いにいく〜 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




「だ、大丈夫だから」
と歌織は、京平の手を払いのける。

「何度も言うけど、こんな最悪の状況になってしまっても後悔はしてないよ。助けられるはずの人を助けられないっていう方が傷つくし、今回のこれは、どう足掻いても避けることの出来ない運命だったのかもしれない。もしそうなら、特に悔いはないよ」
「歌織、勘違いしていないか?現実味は薄いけど、ゲームの世界じゃないんだぜ。あの侍も言ってただろ、『死んだら終わり』なんだよ」
「そうかもね。でもどう考えても、現実味が沸かないや。怖くならないや」

牢屋内で交わされる別れの言葉に、囚人達は耳を傾ける。
斜向かいの牢に囚われている加真次(カマジ)は、歌織へ餞別(せんべつ)の言葉をかける。

「お嬢ちゃんは俺たちに一足早い死刑宣告を(もたら)した。それと同時に、死臭が立ち込める牢獄で一時の団欒も齎した。どうせここにいちゃ死ぬ運命。お嬢ちゃん達に出会えて楽しかったぜ。ヘンテコな服や頭だけどな」
「加真次さん、私も会えてよかった。京平の看病に助言をくれて心強かったです。加真次さんは、ヘンテコな入れ墨をしてるけど」
と、歌織は冗談混じりで言い返す。

「バッキャロー、ヘンテコじゃねぇよ。船乗りの願掛けだ、男の勲章だぞ」
「へぇ、入れ墨って船乗りさんがするものなんだ」
「何も知らねえお嬢ちゃんだな。ここから出たら嫌でも船に乗せて俺らの心意気を教えてやるわ」

“ここから出たら” なんて有り得ない事なのに。
歌織は心の中で呟きつつ、微笑みを返した。

そこへようやく、姿を消していた阿湯太那(アユタナ)が現れる。
しかめ面に鋭いオーラを放つのはいつもの事で、ようやく兵士達に囚人を連れ出すよう指示を出す。

王の命令により歌織と、見せしめの為に京平と太市も連れ出し、手と足に枷をつけて縄で囚人全員を繋ぐ。
綺那李(キナリ)も、拒否される事を承知の上で処刑場に連れていくよう訴える。
しかし阿湯太那はあっさりとそれを受け入れ、三人の後ろに枷をつけて並ばせた。
そして囚人達の前後に着く兵士達に、何やら耳打ちで指示を出す。
それを聞いて兵士達は驚くも阿湯太那の意志は固く、従うように強く説き伏せる。

ようやく支度を整え、囚人四人は処刑場まで引かれていく。
場所は主祭殿前の広場、普段人々が行き交い賑わうムラの中心部だ。
広場に設置された舞台は小高くなっており、周りに民衆が何事かと押し寄せている。

広場に近づくにつれ、歌織の耳鳴りは酷くなっていた。
たくさんの人々が詰めかけて騒がしいはずなのに、喋り声は後ろの方で微かに聞こえるだけ。
甲高い一筋の音が波のように押し寄せ、意識を持っていかれそうになる。
何とか足を踏み出し兵士に着いていくものの、その耳鳴りは強くなるばかりである。

「お前達はここで待て」

処刑台は目と鼻の先という、鑑賞に最適の場所に立たされる京平と太市、綺那李。
阿湯太那は歌織の枷に繋がれた縄を解き、他の三人と引き離す。
いよいよ処刑台に連れて行かれるのかと、歌織は真っ直ぐ空を見上げた。
強い風によって暗雲が立ち込め、昇っているはずの太陽は見えない。
自分達を救うはずだった "日の出” は、もう姿を現す事はないのだと、歌織は悟った。

歌織の背後で、綺那李が何かを話している。
今にも涙が溢れそうな瞳で、でも強がって必死に何かを訴えかけている。
太市はいつもの優しい眼差しが消えたかのように、眉間に皺を寄せ歌織に何かを尋ねている。
しかし両名の声は、激しい耳鳴りによって掻き消される。

京平は何も発さず、しかし歌織の腕を強く掴んだ。
離さないよう強く握られた腕から、京平の手の震えが伝わる。
何かに怯えるような、それでも必死に抗おうとするような目をただひたすら歌織に向ける。
何かを伝えたがっているのはわかる。しかし歌織の意識は、それとは別の所にあった。

耳を劈くような一筋の高音は、よくよく耳を澄ませば波打ち、まるで言葉のように聞こえる事に気付いたのである。
今にも飛びそうな意識を必死に捕まえながら、その音に注意を払う。
その耳鳴りと思える音こそ、死の面前にも関わらず落ち着きを払い、自信を持っていられるものの正体であった。