タイムトリッパーズ〜いつの時代も必ず君に逢いにいく〜 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜




牢獄で何を揉めているかと言えば、こちらもまた重要人物の不在が関係していた。
指揮を執るべき兵長の阿湯太那(アユタナ)が、時刻になっても現れない。
規則に厳格な兵長が遅刻をするのは初めてのことである。
牢の前で兵士たちが行き交うのを、綺那李(キナリ)は不審に思った。

「もし、九真由(クマユ)
兵長の側近が通りかかった時、綺那李は声をかけた。

「何かあったのか?とても慌ただしいけれど」
「いや、その・・・・お嬢さんが気にするような事じゃ」
「処刑の準備に手間取っているとか?それとも、王が気まぐれに処刑を取り止めると言ってくださったとか?」
「だと、いいんですけどね・・・・」
「とにかく、私は今日歌織さんについていく。何があっても歌織さんと同じ処分を受ける、そう父様に伝えて。これが私の覚悟だ」

九真由は首を縦にも横にも振らず、顔をしかめながら去っていく。
隣の牢では、太市が何やら歌織に話をしている。
牢の前を走り回る兵士たちに悟られないよう、牢屋の奥に歌織を誘い、太市と京平で覆い隠すように囲う。

「歌織。俺たち二人で考えたんだけどさ」
「"俺たち” っていうか、太市がな」
「京平、それはいいから。で、考えたんだけど、いっそ歌織は夜中に一人で脱出したことにして、奥に隠れておいてくれよ。俺たちが全力で歌織を隠すからさ」
「隠すって・・・・この狭い牢屋の中で?隠れるところなんてないよ。すぐに見つかっちゃう」
「えっと、それじゃあさ、処刑場に連れて行かれるまでの間で逃走しよう。俺らが兵士達の注意を引き付けるから、その間に全力で走って」
「無理だろ。歌織も俺たちも手錠で繋がれてるだろうから、それを解かない限り逃げられない」
「それに、私一人逃げたところで他の誰かが代わりに処刑されてしまうかもしれないよ。それはちょっと、嫌だな」
「じゃあ歌織は、他の誰かが死ぬくらいなら自分が犠牲になります、って言いたいのか?それとも、伊代が何かしてくれるのを信じてるのか?もし伊代が何かしてくれるとしたら、昨晩のうちだったんじゃないか?脱出させてくれるとか、王様とか偉い人達に掛け合ってくれるとかさ。伊代一人だけを頼るなんて、無謀な話だったんだよ」
「京平、そんな言い方ないだろ!」
「酷い言い方だけど、それが現実だ。伊代は大学の時から内気で優柔不断だったからな。無かったことを悔やんでも意味がない。俺らはここで死ぬ運命にあるってことだよ。食べ物を運ぶ為に投獄されたのに、無駄だったな」

京平の言葉に、歌織は何も返せない。
ここまでくれば以前のような威勢のいい返しも出来ず、怒りの気持ちすら湧いてこない。
思考力を低下させている原因は、不穏な耳鳴りだ。重い頭痛のように頭の中で鳴り響き、時に会話が聞こえづらくなることもある。

「・・・・っていうのはどうだろう、歌織?」
「あ、えっと、ごめん。太市、もう一度言ってくれない?」
「歌織、どうかしたのか?」
「耳鳴りが酷くて、会話が聞こえづらいかも」
「熱はあるか?頭痛は?」

京平は手のひらを歌織の額に当て、体調が悪くないか確認し始める。
突然のことに歌織は驚く。
先程まで喧嘩腰の態度を取っておきながら、急に相手を気遣うように優しくなるのだから、歌織はこれまでも気持ちに翻弄されてきた。
しかし大学時代の四年間共に過ごして、それは京平にとって言葉を交わすように自然な行為であって、心境の変化だとか、何かしらの特別な意味がある訳ではないのだ。