タイムトリッパーズ〜いつの時代も必ず君に逢いにいく〜 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜






日が随分高く昇った頃、奴国(ナコク)王・駕籠彦(カゴヒコ)は原因不明の動悸によって目覚めた。
夜の寝つきが悪く大寝坊をしている訳だが、王にとって “遅れる” という言葉は存在しない。
しかし三十路の若き王に、このような心臓の不調は初めての事だった。

目覚めの悪い日に詮議や行事を取りやめる事は日常茶飯事であるが、本日は罪人達の処刑日である。
気まぐれながらも自らの独断で下した命令、そして前代未聞の大人数の処刑である為、この日ばかりは見届けない訳にはいかない。
この時代には医師という概念がまだ無く、体を壊した時には巫女からお祓いを受けるのが通例であった。
海の向こうの大陸から薬なるものが送られる事もあったが、船旅は危険なものでありそう頻繁に船が行き来する事も無く、通商も整ってはいない。

王は妹の姫巫女を呼ぶよう侍従に伝えたが、寝所に姿はなく、朝の祈祷に出かけたのだろうと言われた。
何かの病の兆しであれば大事だが、王は仕方なく何事もないふりをして主祭殿の広間に出る。
いつもの通り臣下の大人達が整列し、王を迎える。
そして先頭に控えるムラ長が『準備は、整っておりまする』と伝える。
間も無く、刑執行の刻限となる。王は頷き、処刑場へ向かおうとする。

そこへ侍従がやってきて、王に言伝をする。

「失礼仕りまする。邪馬台国(ヤマタイコク)の使者の方々が、王に面会を求めております」
「邪馬台国の使者?何か聞いておる者はいるか」
「女王の遣いと申しております」
「チッ、それどころではないのに。余が行くまでに万事、整えておけよ」

臣下達は捌けて、先に処刑場へと向かう。
王の待つ広間へ通されたのは、邪馬台国の使者であり外交大使の難斗米(ナシメ)都心牛利(ツシゴリ)だった。
他国の君主達の間でその名前はよく知られており、女王の代理人として恐れられていた。

「奴国王・駕籠彦様。面会が叶いましたる事、心より御礼申し上げまする。私は・・・・」
「挨拶はよい。其方らの名前は存じておるからの」
「それはそれは、有難き幸せにござりまする」
「真にそう思っておるかのう。して、此度は如何なる用件じゃ?余は今、大事な催しを控えておるのじゃ、長くは話せぬぞ」
「お忙しき折にお目通りをお許しいただき、御礼申し上げまする。此度は我らの女王より司令を受け、奴国へ参上致しました。少し前から奴国を訪れているという “客人” という方々とお会いし、我が国へお連れするように申し遣っております」
「客人・・・・?誰の事を言うておる」
「お名前は伺っておりませぬ。四人の若人、という事しか」
「知らぬな。他国からの来賓は無いし、異国からの侵入者はおるが、奴らは罪人じゃ」
「はて。罪人と仰せの者たちは、四人の若人でございますか?」
「二人、いや三人だったか・・・・人数なんぞ数えておらぬ。本日死ぬ者達じゃから、気にする事はない」

ここで王は、気まぐれに思いつく。
本日訪れた邪馬台国の使者達に、これから行われる催し物を見学させるのはどうだろうか。
奴国のやり方と権威を見せる事で、連合国を統率する邪馬台国への牽制にもなり得るだろう。
奴国王を今後怒らせればどのような目に遭うか、示す機会だ。

こうして王は処刑場に見物用の座敷を儲けさせ、まるで祭りが始まるかのように上機嫌で難斗米達一行を案内した。
しかし王の席の隣に用意された姫巫女の座敷は空で、一向に現れる様子はない。
加えて、処刑の準備は整っていると聞いていたにも関わらず処刑される囚人の姿もない。
牢獄から引率するはずの兵士達が何やら揉めているらしい。
王は少し機嫌を損ね、すぐに囚人達を連れてくるよう命令する。
使者の対応で幾分落ち着いていた王の心臓は、今また激しい動悸が再発していた。