祈りを捧げた老婆は、葉李菜達に向き直る。
「お前達は己の持つ役割がある。しかしその役割に惑わされてはならない。最高司祭、兵士を束ねる長、その役割は何の為に授かったのか。位自体にしがみついていればお前達は破滅あるのみじゃ。民を守る為、家族を守る為、友を守る為、その為の位である事をしかと心得よ」
「「ははっ」」
葉李菜と阿湯太那は深く頭を下げる。
小麻李も父に続いてお辞儀をする。
それは決して父の真似ではなく、老婆の言葉を自分なりに心に受け止めていることを表した敬意である。
「そして、伊代殿」
「は、はい」
伊代も心して老婆に向き直る。
「何者も恐るるに足りず。伊代殿の思うがままにやってよいのじゃ。恐れを全て無くした時にこそ、守るべき者は守られるであろう。そして人々を導き、奴国ひいては倭を救うのだ。伊代殿はこの世の救ひ人である」
「そ、そんな責任重大なことを・・・・」
「恐るるに足りず、じゃ。安心せい、皆がお前さんを助けるよ」
伊代が隣に目を向ければ、葉李菜と阿湯太那、そして小麻李と目が合う。
悩みの霧が晴れ、使命と期待に胸を膨らませる彼らは、事態を解決する為に伊代の手助けをする事を誓う。
一晩孤独に思い悩んでいた伊代は、素直にそれを頼もしいと思い、遂に行動する事を決断した。
「以上が神々の言葉である」
「「ははっ」」
宿命を切り拓こうと決意する彼らの思いと裏腹に、空は忽ち暗雲が立ち込め、不吉で冷たい風は強くなる。
処暑の季節にしては肌寒く、台風の到来を告げるような急変ぶりである。

