タイムトリッパーズ〜いつの時代も必ず君に逢いにいく〜 第一章 YAYOI〜日出づる國の女王〜





「私がもっと小さい頃、寝付けない夜に母様はこうやって外に連れ出したのだそうです。お月様や星の光が優しくて、眠気を誘ったのだと母様は言っていました。だから、伊代様も眠れるかなって」

大人を思いやる純粋で無垢な姿に、伊代は心を奪われた。
小さな少女に気を遣わせてしまったのだと、反省する。

「うん、ありがとう。ゆっくり眠れそうだよ」
「心配なのですね、歌織様が」
「うん・・・・小麻李(コマリ)ちゃんのお姉さんの事もね。助けてあげたいけど、今すぐにでも逃げ出したくて堪らない。私じゃ何も出来ないんだって、現実を見るのが怖いの」

小麻李は伊代の背中を優しく撫でた。
母様はよくこうしてくれる、と言って背中を撫で続ける。
満月でもないのに月の光は明るく、二人を優しく照らしている。
現代の日本ではここまで明るいと感じなかっただろう、月光の明るさを考える事も無かったかもしれない。

「伊代様はお優しい人ですね。私も、何も出来ません。巫女の見習いもまだ始めたばかりだし、こんな小さい手じゃ母様の炊事の手伝いも難しい。でも、みんなの為に働きたい、その気持ちがあれば必ず報われる時が来るって父様が言っていました」

"誰の” 為か。
それは夢の中で伊代の父が繰り返し語りかけていたことだ。

ーーー『伊代は、自分たちが現代に戻れることを最優先にしているようだね。伊代は確かに現代の人間だが、今は弥生を生きる人間なんだよ。伊代のするべきことは全て、弥生ですることだ』

こうも言われ続けていると、伊代は自分の器がいかに小さいのか思い知らされる。
元々自分には誰かを助けるとか、人々の為を思っての行動とか、そういった責任の重さを担える器ではない事はわかっていた。
現代ではそれが普通なのだ。
多様性が重視される社会、自由に物事を選択できる時代で、自分がやらなくても誰かがやる、自分の為を思う事が日常となっていた。

しかし今隣にいる少女は、小さな体でもこのクニの為に何か貢献しようと思っている。
そしてそれが当たり前だと言っている。
小麻李は眠気に耐えられず、頭を伊代の肩に凭れる。
純粋な少女の体は軽いのに、触れる部分はとても温かく存在感があった。

今、選択を強いられているのだ、と伊代は直感した。
現代にいた頃と同じように、誰かの陰に隠れて自分の為だけに生きる道か、友達の為かつこの時代の人々の為に犠牲を厭わない茨の道か。

月を見上げて一人考える伊代の前に、影が落ちる。
老婆が家から出てきて二人の様子を見に来たようだ。

「悩んでいるようだね」
「起こしてしまいましたか?ごめんなさい」
「遠慮は要らないよ、存分に悩みなさい。お前さんが進まなければ、今日の太陽は昇らないよ」

謎の言葉を言って、老婆は東の空を見上げる。
あと何時間かすれば日が昇るはずの方角だ。
伊代は老婆の言葉を聞いて、はじまりの城で武者に言われた事を思い出す。
この世界から脱出する方法は、『民に日の出を見せること』。
その事と関係があるように思えて伊代は気になり始める。