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ーーー眠らなければ。
唯ならぬ明日への不安を抱えた三人は、寝床で冴えきった頭と格闘をしていた。
葉李菜は帷の降りた寝床の中で、幾度となく寝返りを打つ。
瞼を閉じれば蘇る、かつての兄王の姿。
若き頃を懐古しては、現在と比べて悲壮感に包まれる。
気まぐれで狂乱的な現在の兄王の中にもかつての優しさが残っていると信じ、長く彼に従ってきた。
しかし此度の件があっても、まだそう言えるのだろうか。
神々に祈りたい、采配を仰ぎたい。
そう思い立った葉李菜は寝床を出て、うたた寝する侍女や護衛を横目に住まいを出た。
一方阿湯太那も冴え切った頭が不吉な事ばかりを過らせ、寝付けずにいた。
帰宅前、自ら無礼を承知で王の寝所に向かった。
王の身の回りの世話をする侍従は、王は就寝しているとの事で取り継がなかった。
阿湯太那は行きどころの無くなった思いを捨て去る事が出来ず、寝所の前で土下座をし、囚人の処刑を中止するよう何度も叫んだ。
侍従はその恥知らずな姿を見て見ぬふりし、寝所の中も動きは特になかった。
数刻粘った挙句追い出され、放心状態のまま帰宅してきた。
妻や子供達は眠りについていた。
既に夜も更けていたから当然の事だ。
明朝起きてきた時、綺那李の事をなんと説明すれば良いだろう。
加陽は長女を見殺しにしたと嘆くだろうか。
小麻李は唯一の姉を失い悲しむだろう。
それよりも、愛娘を父親自ら手放してしまった事に生涯の後悔を背負う事になるだろう。
苦悩する阿湯太那の横で、伊代もまた眠れずにいた。
眠れ、眠れ。眠って、またあの夢の世界に行かないと。
父親に会いに行かないと。会って解決策を訊かないと。
眠るように暗示をかければかけるほど、伊代の目は冴え、そして頭は重くなっていく。
この世界に来てから毎晩あの夢を見ていたのに、必要な時に限って夢を見ることが出来ない。
まるで夢に頼るなと父から警告されているようだ。
何度も寝返りを打ち、体位を変え、それでも寝付けずに深いため息を吐く。
その大きな音に気づき、隣で寝ていた小麻李が瞼を開ける。
「眠れないのですか?」
「・・・・ごめんね、起こしちゃったかな」
小麻李は起き上がり、伊代を外へ連れ出した。
未明の空は深く、闇の中に少し欠けた月が浮かんでいた。
今何時だろうか、確認したくても時計やスマートフォンはない。
あと何時間で日の出だろうか、何時間で処刑が始まってしまうのだろうか。
知ったところでどうにも出来ないと言うのに。

