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主祭殿での騒動を知らない太市は、衰弱した京平の看病に追われていた。
看病と言っても食べる物も水もなく、意識の朦朧としている京平に声をかけることしか出来ない。
たまにゴニョゴニョと言葉が返ってくるが、それが返事なのか呻き声なのかはわからない。
「せめて水があれば・・・・」
と太市は力なく呟く。
「お、燕だ!」
斜向かいの牢屋から、特段大きな声が響く。
壁の隙間から外を見ている囚人、彼の名前は加真次というらしい。
住む家もなく辺りを彷徨い、他人が育てた作物を無断で食べた事で罪に問われ、三週間ほど前から牢屋に収監されていた。
「燕の肉は美味いぞ、そこらへんの雀や鴉よりも格別だ」
「加真次さんは、お腹が減りすぎて全ての動物が食べ物に見えてくるんですね」
「まぁ、それもあるがな。燕が普段よりも幾分か低く飛んでいる。それに風も強くなりつつある。これは明日にでも雨が降るだろうから、また飲み水を調達できるぞ」
能天気な流浪人にしては知識があると気づいたのは、京平の看病について助言をくれた頃からだ。
他の囚人が生きる気力を失っている事に比べ、彼だけが気楽なように見えるのは、その聡明さ故だろうか。
突然扉が開かれ、太市の牢屋に入ってきたのは歌織だった。
阿湯太那によって中に押し込められ、また扉は固く閉ざされる。
急な友人との再会に、当然太市は困惑する。
「明日の朝迎えにくる。それまで仲間との再会を楽しむんだな」
そう言って阿湯太那は、いつもの無表情でこの場を去ろうとする。
すぐに歌織は呼び止める。
「一つだけ教えてください。綺那李ちゃんは、あなたの娘には同じ処罰は下りませんよね?」
阿湯太那は振り返らず、少しの間黙っている。
つい先ほど死刑宣告が下ったにも関わらず、他人の娘を心配する余地がどこにあるのか、その事に阿湯太那は驚いていた。
結局返事をすることはなく、そのまま牢屋を後にした。
「歌織、どうしてここに?大丈夫?」
と、太市は酷く心配する。
「大丈夫だよ。それより太市は?京平も無事?」
「俺はいいんだけど、京平がずっと何も口に入れてなくて」
歌織は、京平の弱った姿を初めて目にする。
力なく横たわったまま動かない姿に、歌織は心を痛める。

