「ま、待って、本当なんです!今すぐ対策をしないと、このクニは壊滅状態になるんです」
「その議題はもう終えたのじゃ。これ以降は勝手な発言を許さぬぞ」
「いや、勝手なのはそっちです!大事な詮議をいつまでも先延ばしにしてぐうたら寝てるなんて、王様の風上にも置けないへっぽこ王!」
歌織の暴言に、黙ったままの臣下達は立ち上がる。
王への侮辱は即打首、それが奴国の通例であった。
「ほう。この異国人は恐れを知らぬのか、それともただの阿呆なのか」
「恐れを知らないのはそっちの方でしょ!神様が怒るわよ」
「其方の下品な策ならわかっておるぞ。目的は囚われている仲間であろう?神の啓示なんぞただの口実、真の目的は仲間を解放することじゃ。嵐は嘘。王を騙そうと企むなど、なんと失敬であるか。この者を捕えよ」
王の命を聞きつけた阿湯太那と部下の九真由は、歌織を取り押さえる。
後ろで見ていた伊代は歌織に駆け寄ろうとするが、歌織から強い視線が送られ、壁の隅に隠れているよう指示される。
王は歌織の失言に怒りも動揺もしていない。それどころか遊びを楽しむかのように、思い通りに進む光景に快感を得ているようだ。
「王に対し不敬を働いた罪、そして余を利用しようと企てた罪、決して軽くはないぞ。其方は詮議が開かれる事を待ち望んでいたようだからな、今ここで詮議をしてやろう・・・・現在牢屋にいる囚人は皆、打首の刑じゃ。例外は無い」
王の気まぐれに、その場にいた全ての人の顔色を青くした。
牢屋に囚われている者の数は数十人。それを一度に刑に処すことは前代未聞だった。
今まで王の顔色を伺って全ての決断に賛同してきた大人達も、顔を見合わせて狼狽える。
歌織を捉えている阿湯太那は眉間に皺を寄せ、葉李菜は少しの間息を止めていたことを忘れる程だった。
「お、お待ちください」
はじめに声を上げたのは、王妹の葉李菜だった。
「いくらなんでも囚人全員を処刑とは、気が早いかと。時間をかけて詮議を行い、囚人一人一人の罪状を見て・・・・」
「余の申すことが間違っているとでも申すのか?」
「いえ、間違っているということではなく」
「では良いではないか。王の決断に異議を唱えることは、奴国では誰にも出来ぬ。たとえ妹であろうと、容赦はせぬぞ。其方はずっと余のやり方に不満があるようだったからな、今ここでそれは不可能であることを皆に見せてやろうか」
「王よ、発言をお許しいただけますでしょうか」
次に声を上げたのは阿湯太那だった。あくまでも動揺を抑え、いつもと変わらず無表情で王に接する。
「良いぞ、兵長」
「処刑となりましても、一日に数十人の囚人を裁く事には限界がございます。処刑人の数が足りませぬ」
これは阿湯太那なりの、王への牽制だった。
しかしそれが陽気で狂気的な王に伝わるはずもない。
「そうか、処刑人にも苦労をかける・・・・では、この女から先に刑に処すように。後の囚人は順次行え。其方に任せる」
阿湯太那は奥歯を噛み締めながら、重い頭を下げる。
歌織はもちろん想定していなかった自分への死刑宣告に、目を泳がせ、冷や汗を止められずにいた。
阿湯太那と九真由に腕を捕まれ、ようやく動いた歌織は牢屋へと運ばれる。
伊代は反論も出来ず、連れていかれる歌織をただ見送ることしかできない。
主祭殿を出る時、歌織は口を動かして伊代に何かを伝えた。
『あとはよろしく』
そう言ったのかもしれない。
しかし友人の死刑宣告に震えが止まらない伊代の目線は定まらず、そう言っていたのかは定かではない。

