「騒がしいのう。誰じゃ、余の眠りを妨げた不届者は?」
奴国王・駕籠彦は、重い瞼を擦りながら臣下の前に現れた。
待ちに待った、王の参上である。
王の機嫌の悪さに臣下達は怯え、頭を上げる者はいない。
その中心に歌織は進み出る。伊代もそれに続こうとするが、なぜか歌織はそれを制し、壁際に控えているように示す。
歌織は王へ一礼をした後、真っ直ぐに王を見つめる。
「王様、私が呼びました。聞いて欲しいことがあります」
「余は其方に発言を許した覚えはないぞ」
あからさまに機嫌を損ねている王に、臣下の列の最前に控えている老齢のムラ長が歌織を下がらせようとする。
しかし歌織は動じず、王の前から下がろうとしない。
「緊急を要することなんです。どうか聞いてください。人々の安全に関わることなんです」
「よくもそんな大層な戯言を、女の分際で」
「女ですが、巫女です。東の果ての国から来た巫女です。神の啓示を伝えに来たんです」
視線を微塵も逸らさず、ただ王の目をじっと見つめる歌織。
その眼力に王は一瞬怯む姿を見せた。それを見逃さず、歌織は話し始める。
「もうすぐこのクニに嵐がやってきます。未だかつて経験したことのない大きな嵐です。数日のうちにやってきて、家を荒らし、稲や作物を荒らし、人々の生活を困窮させるでしょう。嵐を避けるためには、牢屋にいる囚人達を恩赦にして神への忠誠心を見せるのです。一刻の猶予もありません、どうか」
王は白けた目で歌織の話を聞いている。
そして大広間から垣間見える空を見上げ、清々しい青空を確認する。
「葉李菜よ、祈祷では何と出ている?」
と、王は横に控えていた妹へ尋ねる。突然の問いかけに、葉李菜も歌織も困惑する。
「は・・・・何とは?」
「姫巫女の祈祷ではどう出ているかと訊いているのじゃ」
「ちょっと、待ってください。私たちが受けた神の啓示が信じられないってことですか?」
「異国の女は黙っておれ」
葉李菜は、歌織たちの大広間への入場を快く受け入れてくれたが、当然神の啓示という壮大な芝居計画を知る由もない。
奴国随一の巫女であるから、事実を王に奏上する。
「嵐が来るというような予言は・・・特に出ておりません」
「うむ。では、異国の巫女の申すことは要らぬ心配である。よって恩赦は不要じゃ」
王の一声に臣下は従い、深々と頭を下げる。
もちろん、この早すぎる決断に歌織が納得する気は毛頭ない。

