人々の反応は想定通りで、首を傾げたり、眉間に皺を寄せたり、真摯に受け止める者は少なかった。
何より伊代の中の恐れが言葉の節々に出ており、自信がなく、大人達の顔色を伺っているその姿を見て誠実に聞こうとするものはいなかった。
「ですから、囚人の恩赦をお願いしたいのです」
と伊代が話を終えると、とある大人はわかりやすくため息をついた。
「囚人の詮議も行われていないのに恩赦など出来ない」
「神の啓示と言えど、異国の知らぬ巫女の言うことでは信じ難い。これが姫巫女であれば話は別だが」
「昨今の天気は快晴、嵐の来る気配もない。本当に甚大な被害の出る嵐が来るとは思えぬ」
「第一このような重大な事柄は、王の判断が無ければ決められぬ」
「でも、嵐はいずれ来ます!すぐに行動しないと・・・」
と伊代も反論するが、その言葉に自信はない。
伊代の後ろで黙って聞いていた歌織は、押し込めていた不満を制御できず、ついに声を上げて存在を示した。
「王様を出せーーー!!!」
大広間に、主祭殿の外にまで響き渡る大声は、一斉に大人達を黙らせた。
歌織は続けて、早口で捲し立てる。
「ついさっきまで王様がいなくても好き勝手自分たちで決めていたくせに、都合の悪い話になると王様の名前を出して議論を避けようとするなんて、格好悪いと思わないの?そんなに王様の判断が必要なら、どうせ奥の部屋にいるんだから引っ張ってでも連れて来いよ!政治を代表する立場の人間が政治に対していい加減でどうすんの、そんな王様でみんなも陰で『気まぐれ王だ』って失望してんの、気にならないの?王様!聞こえてますか、今すぐに来てよ!」
大人達は口を大きく開け、呆れた顔をするものもいれば、驚きで固まったまま動かないものもいる。王の悪口を聞いて唾を呑み込む者もいた。密かに背中に大汗をかく者もいる。
兎に角、歌織のように大広間の場で批判した人間は、後にも先にもいなかった。
全員が、この奥で休んでいるはずの王の耳に悪い話が届かないよう、ただそれだけを注意して来たのだ。
歌織の声を聞いて、流石に黙っている気は無かった。
その人、奴国王・駕籠彦はようやく大広間に姿を現した。
大きなあくびを噛み殺しながら。

